サントリー『山崎ピュアモルト』ウイスキーの変遷について
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日本が誇る世界的なウイスキーメーカーである『サントリー(SUNTORY)』社の代表的なシングルモルトウィスキー『山崎』。1984年の発売以来、現在に至るまで世界のウイスキー愛好家に愛され、好まれ、愉しまれてきた、世界的なジャパニーズウイスキーであります。2000年以降の現行品の山崎ウイスキーには熟成年数未表記(NAS)、12年熟成、18年熟成、25年熟成があり、35年熟成、50年熟成、55年熟成ものもあるようです。数年前、山崎55年を300万円(税別)抽選販売していましたが、今思えばその時に応募してみればよかったと思うこの頃です。
現在は、山崎ウイスキーの原酒を使ったサントリー社のブレンデットウイスキーや、山崎シングルモルトウィスキーが作られ、販売されていますが、山崎ウイスキーの原点は1984年に発売された『山崎ピュアモルトウイスキー760ml、43%(熟成表記なし)』でした。山崎は発売以降、ラベルとキャップなどのデザインが数年単位で変更されており、その変化を辿ることで山崎ウイスキーの生産流通時期を割り出すことができます。
他のほとんどのウイスキー同様に、山崎ウイスキーも1984年発売から今に至るまで、構成原酒のクオリティーが下がり続きてきました。そのために山崎ウイスキーの変遷を理解し、より美味しい山崎ウイスキーを見つけて楽しんでみることをお勧めします。
第1世代)初代の山崎ピュアモルト(4516表記)
:1984年に発売、ウイスキー特級表記あり、PURE MALT表記あり、熟成年数表記なし、容量760ml、◇4516表記あり

山崎ウイスキーの第1世代となる、初代『山崎ピュアモルトウイスキー』は、容量が760ml、度数が43%、熟成年数は表示なしで発売されました。ウイスキーの容量が現代によく見かけるような700mlでも750mlでもなく、760mlである理由は、スコッチウイスキーが採用したヤード・ポンド法と、日本が採用するメートル法の関係にあります。
代表的なウイスキーの容量である『4/5クォート』をリットルに換算すると約757ml~760mlであったため、1970年代後半から1980年代前半にかけて日本で流通したウイスキーは概ね760mlで瓶詰めの上で流通されました。1980年代に入ってからメートル法が普及するにつれてウイスキーの容量が750mlに統一され、日本でも750ml表記に移り変わることになりました。その後、再びメートル法に基づき端数のない700mlになった歴史的な背景があります。

この第1世代の山崎ピュアモルトウイスキーは、1984年から1985年までの約2年間に満たない短い期間のみ生産および出荷されたものと考えられます。この時期のボトルは、容量が760mlである事の他に、『ウイスキー特級』があり、SINGLE MALTではなく『PURE MALT』の表記があること、熟成年数の表記はなく、菱マーク(◇)と共に数字の4516が表記されるなどの特徴があります。
この菱マークと数字の『4516』は、山崎ウィスキーの課税酒類通関番号が4516であったことに由来していて、菱マーク(◇)内に記載された漢字や英字は、通関した各地の税関を記したものであります。この通関記号の詳細は以下の通りです。
<アルファベットイニシャル>
OK: 沖縄
K: 神戸
NY: 名古屋
Y: 横浜
T: 東京
<漢字略称>
東:東京
大:大阪
沼津:沼津
また、この時期の商品箱は、紙箱、紙とベルベット箱、木製箱の全てが存在するようです。それぞれの箱の間ではわずかな時代の前後はあるものの、1年余りの短期間に限定さて生産されたものであり、販売された場所などによる違いもあり、箱による世代分けは有意味ではと判断して区分は省略します。
基本的に紙箱は海外輸出用在庫でありますが、国内で流通したこともあるようです。紙とベルベットの箱は国内用商品が大半でありました。その後、『山崎』と書かれた木箱が主流となり、しばらく木箱で流通するようになりました。しかし、この1980年代は、ウイスキーが活発に消費されていた時代ではなく大量に在庫が積まれていたこともあって、それぞれの箱の山崎ウイスキーの流通次期はバラバラではありました。
第2世代)始まりの山崎ピュアモルト(4516表記なし)
:1985年頃に生産および流通開始、ウイスキー特級表記あり、PURE MALT表記あり、熟成年数表記なし、容量760ml、◇4516表記がなくなる。

この第2世代の山崎ピュアモルトウイスキーは、1985年から1986年頃までの短い期間のみ生産および出荷されたものと考えられます。第1世代とは『課税酒類通関番号と記号:菱マーク(◇)・4516表記』がなくなっただけではあって区別することに大きな意味はないですが、コレクターは唯一無二の第1世代を特定したがるものなので区分しています。

『課税酒類通関番号と記号:菱マーク(◇)と4516表記』以外は、表と裏のラベル表記は第1世代と完全に一致しています。

この時代から50mlのミニボトルが生産されているので、今でも稀に市場で発見することがあります。
第3世代)山崎12年ピュアモルト(熟成年数の記載開始)
:1986年頃~1989年3月まで生産、ウイスキー特級表記あり、PURE MALT表記あり、容量760ml、熟成年数の『12年』が初めて表記される。

1986年頃に初めて山崎ピュアモルトウイスキーに12年の熟成年数が表示されるようになりました。ウイスキー特級表記は1989年3月末までに生産された分まで続くので、ウイスキー特級の表記は消えていません。
この第3世代のデザイン上の特徴は以下の通りです。
1) この後の世代と比較すると、ラベルの金色の縁取りがない。
2) ラベル左上にある響マーク(Hibiki Crest)が、この後の世代と比較して丸みを帯びた旧デザインである。
3) ウイスキー特級表記がある。
4) 容量が760mlである。
5) 住所表記が本社所在地である「大阪市」と記載されている。
6) キャップと瓶背面に「SUNTORY - PURE MALT - WHISKY」の浮き彫りがある。

第3世代の裏面ラベルも変わらず上記のようなシンプルなものから変更はありませんでした。
第4世代) 山崎12年ピュアモルトウイスキー(特級なし)
:1989年4月以降~1990年3月頃まで生産、PURE MALT表記あり、熟成年数の12年表記あり、容量750ml、初めて『ウイスキー特級』表記が消える。

1989年4月以降~1990年3月まで生産された第4世代の山崎ウイスキーです。いわゆる特級時代が終わる時期と重なって生産された世代であったために、山崎ピュアモルトウイスキーのラベルやボトルにも多くの変化がありました。
この第3世代のデザイン上の特徴は以下の通りです。
1) 前の世代とは異なり、ラベル外周に金色の縁取りがある。
2) ラベル左上にある響マーク(Hibiki Crest)が、この後の世代と比較して丸みを帯びた旧デザインである。
3) ウイスキー特級の表記が消えた。
4) 容量が760mlから10ml減少し、750mlになった。
5) 住所表記が本社住所である「大阪府」と記載されている。
6) ラベル裏面最下部の文章3行は、下に行くほど各行の長さが短くなっている。
7) ラベル裏面にバーコードやQRコード記載はない。
8) キャップと瓶裏面に「SUNTORY - PURE MALT - WHISKY」の浮き彫りがある。

この第4世代から裏面のラベルも変化し、上記のように表面と同じようなクリーム色の大き目なラベルになりました。
第5世代) 過渡期の山崎12年ピュアモルト(新型の響マークに変更)
:1990年4月以降~1992年頃まで生産、PURE MALT表記あり、熟成年数の12年表記あり、容量750ml、響マーク(Hibiki Crest)が新型に変更される。

1990年4月以降~1992年頃の短い間に一時的に生産された第5世代の山崎ピュアモルトウイスキーで、第4世代とほとんど変わりません。

この第5世代は、上記のように左の旧型響マーク(Hibiki Crest)が、右側の新型の響マーク(Hibiki Crest)に変更された点が唯一の変更点です。

この第5世代はの裏ラベルも第4世代と変更点はありません。
第6世代) 山崎12年ピュアモルト(SYAN表記開始)
:1992年以降~1994年頃まで生産、PURE MALT表記あり、熟成年数の12年表記あり、新型響マーク(Hibiki Crest)、容量750ml、裏ラベルにSYAN表記あり。

1992年以降~1994年頃に生産された第6世代の山崎ピュアモルトウイスキーです。
この第6世代ののデザイン上の特徴は以下の通りです。
1) 裏面最下部の文章3行が左揃えに変更された。
2) 背面ラベル右下に「SYAN」の印字がある。
3) 住所表記が本社所在地である「大阪府」と記載されている。
4) バーコードやQRコードはない。
5) キャップとボトル背面に「SUNTORY - PURE MALT - WHISKY」の浮き彫りがある。

この第6世代はの裏ラベルの裏面最下部の文章3行が左揃えに変更されたのが最も分かりう安い変更点です。
第7世代) 山崎ピュアモルト(バーコード記載開始)
:1994年以降~1996年頃まで生産、PURE MALT表記あり、熟成年数の12年表記あり、新型響マーク(Hibiki Crest)、容量750ml、裏ラベルにSYAN表記あり、裏ラベルにバーコートあり。

1994年以降~1996年頃まで生産された第7世代の山崎ピュアモルトウイスキーです。裏ラベルに初めて商品バーコードが印字されるようになりました。
この第7世代ののデザイン上の特徴は以下の通りです。
1) 初めて裏ラベルの下部中央に商品バーコードが追加された。
2) 裏面最下部の3行の左揃えが維持された。
2) ボトル背面ラベル右下隅に「SYAN」の印字がある。
3) 住所表記が本社所在地である「大阪府」と記載されている。
4) QRコードはない。
5) キャップとボトル背面に「SUNTORY - PURE MALT - WHISKY」の浮き彫りがある。
*山崎ピュアモルトウイスキーキャップシールの変化について

左)1994~1996年頃まで流通したボトルのキャップシール、
右)1996年頃以降に流通したボトルのキャップシール
第7世代(バーコードラベル)以降では気づきにくい変化がもう一つある。キャップシールの点線の方向が変わりました。1994年~1996年頃の間に、キャップシールの開封用点線が『水平点線』から『斜め点線』に変更されている。偽物の山崎ウイスキーが見落とす特徴でもあるので覚えておくといいでしょう。
第8世代)山崎『最後』のピュアモルト
:1997年以降~2004年頃まで生産、PURE MALT表記あり、熟成年数の12年表記あり、新型響マーク(Hibiki Crest)、容量750ml、裏ラベルにバーコートあり、バーコードの左右に案内文記載あり。

1997年以降~2004年頃まで生産された第8世代の山崎ピュアモルトウイスキーで、ピュアモルトが表記された『最後の山崎ピュアモルト』ウイスキーです。
この第8世代ののデザイン上の特徴は以下の通りです。
1) 裏ラベルのバーコード両側左右に案内文が記載されるようになった。
2) 裏ラベルに初めて「未成年者の飲酒は法律で禁止されています」という文言が追加された。
3) 裏ラベルに初めてサントリーの顧客相談室電話番号が記載される。
4) 裏ラベルの製造者住所が山崎1023-1から山崎5丁目2-1に変更された。
5) QRコードはない。
6) キャップと瓶裏面に「SUNTORY - PURE MALT - WHISKY」の浮き彫りがある。
第9世代) 山崎12年『シングル』モルト
:2004年以降~2007年頃まで生産、表記あり、熟成年数の12年表記あり、新型響マーク(Hibiki Crest)、容量750ml、裏ラベルにバーコートあり、バーコードの左右に案内文記載あり、『PURE MALT』が『SINGLE MALT』に変更される。

ピュアモルトの時代が終わり、『シングルモルト』になった直後の山崎ウイスキーであり、数年間生産されたようです。
この第9世代ののデザイン上の特徴は以下の通りです。
1) 『ピュアモルト』表記が『シングルモルト』表記に変更された。
2) 正面ラベル中央に「YAMAZAKI」と英字が記載された。
3) 容量は750mlのままで変更はされなかった。
4) キャップと瓶背面の浮き彫り文言が「SUNTORY - PURE MALT - WHISKY」から「SUNTORY - SINGLE MALT - WHISKY」に変更された。
第10世代) 山崎12年シングルモルト(700mlボトル)
:2007年以降~2009年頃まで生産、表記あり、熟成年数の12年表記あり、新型響マーク(Hibiki Crest)、裏ラベルにバーコートあり、バーコードの左右に案内文記載あり、『SINGLE MALT』表記、響マークが消える、容量が750mlから700mlに変更される。

山崎12年ウイスキーは、この第10世代になって『山崎12年シングルモルトウイスキー、700ml、43% 』といった現行品とほぼ同様のデザインや容量になりました。
この第10世代ののデザイン上の詳細な特徴は以下の通りです。
1) ラベル左上部の響マークが完全に消えた。
2) ラベル正面の表記が「SUNTORY SINGLE MALT WHISKY 『YAMAZAKI』」から「THE YAMAZAKI SINGLE MALT WHISKY」に変更された。
3) キャップと瓶背面の「SUNTORY - SINGLE MALT - WHISKY」が浮き彫りになっている。
4) ラベル裏面のバーコードが横向きから縦向きに変更された。
5) ラベル裏面に初めてホームページアドレスが記載された。
6) 容量が750mlから700mlへ50ml減った。
*山崎ウイスキー、偽物の見分け方
:2025年現在、ジャパニーズウィスキーの本拠地である日本においてさえ、外国人による偽造ウイスキーが多く出回り始めています。本当に迷惑な話です。日本では自己消費を目的とする個人間での酒類取引が合法であり、Yahoo!オークション(ヤフオク!)や個人間中古取引プラットフォームを通じて多くのウイスキーが取引されています。そのために偽物のウイスキーの流通もウイスキー生産企業がコントロールしきれない状況があります。
近年では偽物のジャパニーズウィスキーもデザインだけでは見分けがつきづらく巧妙に完成度を上げてきていて、古酒ウイスキーを含む中古ウイスキーの購入の際に被害にあう人も増えているようです。偽物が多く流通するウイスキーとしては、『山崎18年』と『響21年』が代表的であり、最近では熟成年数の表記の無い(NAS)ウイスキーまで偽物が流通している始末です。そのために特に人気の高い山崎ウイスキーの場合は、比較的に安価な『山崎12年』であっても購入の際には注意が必要です。
*正確な鑑定は難しいですが、以下の点に注意すると良いでしょう。
- 1984年以降の各時代別ウイスキーラベルとキャップシールの特徴において、何かが欠けている場合は、時代的特性を外している可能性が高いです。明らかに異なる時代のデザインが混在している場合は偽物を疑うべきです。ただし、上記の情報が全てのボトルを網羅しているわけではないため、前後期の変化点が混在している場合もある点に注意が必要です。
- 基本的に山崎のオールドボトルは空瓶を入手するのも容易ではなく、日本のオフライン酒販店で購入する山崎のオールドボトルウィスキーには偽物が少ない傾向はあります。しかし、『山崎18年ピュアモルトウイスキー』や『山崎シェリー樽熟成ウイスキー』、『山崎蒸留所オーナーズカスクシリーズ』は非常に高額で取引されるために少量であっても偽物が作られる可能性が比較的に高いので、正規品の写真と見比べてウイスキーの色やボトルのデザインを比較してみるといいでしょう。
- 山崎ウイスキーにはキャップ、ラベル、瓶裏面の浮き彫りに以下の表記があり、各世代ごとに下記の表示が3点ともに一致している必要があります。
- 'SUNTORY - PURE MALT - WHISKY`
- 'SUNTORY - SINGLE MALT - WHISKY`
- 'SUNTORY - WHISKY`
*初代の山崎18年ピュアモルトウイスキーについて
:1990年代前半に初めて発売された山崎の18年熟成ピュアモルトウイスキー。PURE MALT表記あり、熟成年数の18年表記あり、容量750ml、商品バーコードやボトルの番号がないのが特徴。

こちらは、1990年代始めに発売された山崎18年ピュアモルトの第1世代です。山崎18年は1990年代以降に発売されたため、1989年3月まで使用されていた「ウィスキー特級」の記載はありません。また、1990年代中盤以降に始まったボトルのナンバリングがないことが特徴です。『山崎18年ピュアモルトウイスキー』も年数やラベル色以外では『山崎12年ピュアモルトウイスキー』と基本的なデザインや文字記載も同一なので、上記の山崎ウイスキーの変遷を参考にするとよいでしょう。