1980年以前に蒸留&樽入れされた『オールド・シェリー・ウィスキー』が格別な理由について

1980年以前に蒸留&樽入れされた『オールド・シェリー・ウィスキー』が格別な理由について

上記画像は、1970年代以前に蒸留および樽入れして1980年代前半頃にに瓶詰めしては販売された、モートラック(Mortlach)12年43% 750ml、シェリー樽熟成ウイスキーで、1989年までの『ウイスキー特級』時代に流通していた代表的なシェリー樽熟成ウィスキーの一つです。

当店『アンティークリカー(Antique Liquor)』では、比較的に手頃な価格帯のウイスキーから高級品まで、お値段以上のパフォーマンスをを見せてくれる高品質のウィスキーを提供するためにオールドボトルを中心に仕入れをしています。おそらく当店を訪れてくださる皆様も、オールドボトルウィスキーの特別な魅力に魅了されているのではないでしょうか。

オールドボトルのウイスキーが現行のウイスキーより高いパフォーマンスを見せてくれる理由については、以前にも当店のブログに掲載したことがありますが、下記のような理由を挙げて説明していました。

 

  1. ウィスキーの風味よりも、ウィスキーの大量生産のためのアルコール収率を重視して大麦の品種を変更した点
  2. フロアモルティングを含む手作業工程における細やかなコントロールが失われ大量生産のための製造工程に変更した点
  3. 高級シェリーワインを溜めていたオーク樽など、ウィスキーを熟成するための良質な樽が枯渇した点
  4. ウィスキーボトルのラベルに表示した熟成年数に関する基準が異なる点

 

そうした理由の中でも、『シェリーウイスキー』の場合に大事な、1980年以前に蒸留&樽詰めされたオールドボトルを選ぶべき理由について、簡単に共有したいと思います。まずは、ウイスキーのオーク樽熟成について軽く触れておきましょう。

オーク樽の中でウイスキーが熟成される際、以下のような化学反応が起こります。


  1. オーク樽の付加作用 (Additive effects) : オーク樽材から抽出される物質の影響。主に揮発性芳香物質であるアルデヒド(aldehyde)、脂質(lipid)、タンニン、ラクトン(lactone)などが含まれる。
  2. オーク樽の吸収作用 (Subtractive effects) : 焦がしたオーク樽の内側が炭フィルターのように作用し、原酒の構成成分を吸収する効果を指す。
  3. オーク樽とウイスキーの相互作用(Cross-reaction) : 原酒と樽材の交差反応を通じて、相互の構成物質を交換しながら新たな物質が生じる効果。
  4. ウイスキーの酸化作用 (Oxidation effect) : オーク樽が完全密閉ではないことから生じるウィスキー原酒の蒸発と酸化作用。

 

ウイスキーの原酒がオーク樽に入れられた後は、大自然の中でウイスキーとオーク樽の間の化学反応のみによってシンプルな工程でウイスキーが完成するため、それだけウィスキー作りの材料であるオーク樽の重要性は非常に高いと言えます。

 

 

19世紀末から1980年代まで、海外に輸出されるシェリーワインはオーク樽に溜められたまま樽ごと海外に輸送されていました。当時英国国内でのシェリーワインの人気は安定していて、イギリスに対するスペインのシェリーワインの輸出量もかなり多かったようです。

そのシェリーワインの輸送後に残った空樽をスペインへ戻すのが面倒だった業者たちが、輸送後に残ったシェリー樽をスコットランドの蒸留所に販売・処分していました。そのため、当時は数ヶ月から数年ものの間最高級シェリーワインが溜められたいた良質なシェリー樽がウィスキーの熟成用として容易に入手できていました。

この当時のシェリー樽も、シェリーワインの熟成ではなく、シェリーワインを遠くに運搬するために新しく作られた樽であったため、ワインの味わいに渋みを強くするタンニンなどの香味成分を最小限に抑えるための処理も施していました。新しいオーク樽に、若いワインを詰めて少し「中和」させた後、販売用の長期熟成シェリーワインを詰めて使用したと言われています。(この中和工程はウイスキー熟成にも非常に重要ですが、現在は費用がかかるため省略されたり、極限まで簡略化された蒸留所が多いそうです。)

この樽の中和工程の後に樽の中身を(長く保存が効く)アルコールの度数が高い酒精強化のシェリーワインに移し替えるのですが、この時数ヶ月(場合によっては数年以上)にわたりシェリーワインを樽に保管した例もあったそうです。世界恐慌や戦争などの世界的な需給激減の問題があった時期であったことも背景にあったことでしょう。

このような、高級シェリーワインを長期貯蔵していた良質なシェリー樽で熟成した代表的なウィスキーの良い例の一つが、1980年代後半に流通した『ロイヤル・ロッホナガー・セレクテッド・リザーブ(ROYAL LOCHNAGAR SELECTED RESERVE)』です。このウィスキーの熟成に使われたシェリー樽は、(おそらく経済恐慌によって)高級シェリーワインを数年以上と長く溜めていたオーク樽を使用したと言われています。そのような理由もあって、1980年代前半までに流通していたシェリー樽熟成ウィスキーの多くは非常に美味しく、私が一貫してお勧めしています。

ところが、1980年代前半を過ぎると、シェリーワインの輸送容器が木樽からステンレス製タンクに代わり、1986年にはシェリーワインの瓶詰めは必ず産地であるスペインで行わなければならないという法令が制定されたことで、スペイン国外(英国など)で良質なシェリー樽を見つけることはほとんど不可能になりました。この頃から、高級シェリーワインを詰めていた本物のシェリー樽が姿を消し、不足したシェリー樽を補うために安物のシェリーワインを使って「シェリー樽のようなもの」を製造し、シェリーウィスキーを作り始めました。さらにこの「シェリー樽もどき」を作る時には、タンニンなどの雑味を中和するための工程も簡略化または省略され、その後生産されたウイスキーには渋くて辛いウィスキーが大幅に増えたのではないかと考えられます。

(そもそも、現在のシェリー樽の製造に使用されるシェリーワインは、実は規定上シェリーと呼べないレベルで、飲用目的で造られた酒ではないために木樽をコーティングした後は廃棄されるか、シェリー酢として再加工されるのが一般的です。

以上の理由から、少なくとも1986年以前、様々な要素を考慮すると1981年以前に蒸留されて樽詰めされて製造されたウイスキーが、この「本物のシェリー樽」で熟成されたシェリーウイスキーである可能性が高いと言えます。時折、「本物のシェリー樽でも、現行の偽物のシェリーウイスキーでも味はほとんど同じだ!」とおっしゃる方がいらっしゃいますが、実際に飲んでみるとその違いは歴然です。本物のシェリー樽で熟成されたオールドシェリーウイスキーは、確かに渋みや辛みといった雑味が少なく、香りがより多彩で重厚、あるいはよりフローラルでバランスが良いものが多いです。

*上記の画像は、以前東京のバーで飲んだマッカラン10年で、度数は57%、1980年代に流通していたシェリー樽熟成のスコッチシングルモルトウィスキーです。代表的で人気のオールド・スコッチ・シェリー・ウィスキーですね。

もちろん1981年以前に蒸留され樽詰めされたオールドシェリーウイスキーも、3年熟成から8年熟成、10年熟成、12年熟成、17年、18年、25年熟成、そして30年以上の超長期熟成ウイスキーまで様々なウイスキーがあり、当然熟成年数に伴って価格も高くなっていきます。ただし、価格に差がなければ、現行品のシェリーウィスキーよりはオールドボトルのシェリー樽熟成ウイスキーの方が遥かにはるかにコストパフォーマンスに優れているという点には確信があります。

個人的な体験としても、1980年代初頭に流通していたマッカラン12年43%ウイスキーが、現行品のマッカラン25年43%ウイスキーよりもずっと美味でした。私の話に疑問が湧き上がる方は、騙されたと思って美味しいオールドボトルのシェリー樽熟成ウイスキーを一度は飲んでみて、もう一度考えてみることをお勧めします。

最後に、ここまで読んでくださった方々のなかでも「オールドボトルウィスキーを飲むほどお金がないんです…」 と言われる方もいるかと思いますが、1981年以前に蒸留&樽詰めされ、1990年代初頭に瓶詰めされた10-12年級のシェリー樽熟成ウイスキーと考えると、3万円前後の予算からも良い選択肢は複数あり、モルトブレンドのシェリー樽熟成ウイスキーまで選択肢を広げれば、1-2万円台でも手にできるオールドシェリーウィスキーは少なくありません。億劫にならずにしっかり調べて、無理なく選択肢を広げてみることをお勧めします。

 

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