世界の陶芸家に捧ぐ至高の技術文書:叶光夫手記(成形、銀化、浜田庄司と河井寛次郎秘伝レシピ)

世界の陶芸家に捧ぐ至高の技術文書:叶光夫手記(成形、銀化、浜田庄司と河井寛次郎秘伝レシピ)

「アンティーク・リカー1926」へようこそ。当店では、時を超えて受け継がれてきた近代日本の美と伝統工芸の真髄を世界へとお届けしております。

このたび私どもは、ギャラリーアーカイブにて大切に保管してまいりました京都の陶芸マスター・叶光夫氏による直筆作陶手記の全文を、体系的に整理・再構成して一挙公開する運びとなりました。本資料には、数十年に及ぶ泥土調合の試行錯誤から、古九谷の剥裂防止技術、人工銀化の再現法、そして昭和18年に故・河井寛次郎先生より直接伝授された秘伝の釉薬処方に至るまで、日本陶芸史における極めて貴重な一次情報が克明に記録されています。

私どもがこの膨大な技術遺産を公開する目的は、ひとつに絞られます。かつて先人たちが命を削り、火と土に向き合い続けて築き上げたこの「知の結晶」を、日本のみならず全世界で作陶に挑む陶芸家、工芸研究者、そして美を愛するコレクターの皆様の確かな糧にしていただくためです。国境を超え、美を紡ぐすべてのクリエイターの新たなインスピレーションと技術的飛躍に本資料がお役に立てば、これに勝る喜びはございません。

 

序文

永年考えていたことであるが、今まで実現せずに過ごしてきた。拙いながら数十年間継続してきた作陶の経過を、記録として書き残しておきたい。三日坊主に終わらぬとも限らないが、折に触れ暇を見て書き進めていく所存である。私の死後、何かの役に立てば幸いであるが、あるいは単なる笑い事に終わるかもしれない。思い出すままに書き記すため、内容の順序が前後することはご容赦いただきたい。

昭和四十年十一月二十九日 叶 光夫


第一章 焼き物の起源と原始の造形美


焼き物の起源については専門学者の研究に委ねるべきであるが、私考の一例を述べるならば、その始まりは「土器」に行き着く。雨によってぬかるんだ泥土を人間が歩き、その足跡が残り、その後の日照りによって窪んだ足跡がそのまま固まった。人間の知恵は、この現象から「形を造る」という着想を得たのではないだろうか。 また、大風によって原始林の樹木同士が摩擦し合い、熱を生じて大火事となる。火が鎮まったあとには、それまでとは異なる固く引き締まった地面が形成される。この「成形」と「受熱」という二つの現象が組み合わさることこそ、焼き物の起源にほかならないと考える。


万物の始まりの詳細は専門外ゆえ定かではないが、焼き物の歴史が極めて古いことは疑いようがない。人類が地上に定住し始めた経緯も同様であるが、「思考」という特性を持つ人間が、単に獲物を捕らえて生きるのみならず様々な工夫を重ねた結果、身近な生活道具として焼き物を生み出したはずである。 もっとも、人工的に火を起こす技術の発明自体、現代人が水力発電所を建設するに匹敵する大事業であったに違いない。


では、造形と採火の技術を得た人類は、それをいかに焼成したのか。かつてアメリカの知人からアメリカ・インディアン作の土器を寄贈された際、その製法を聞いたことがある。枯草を敷いた上に器物を並べ、さらに草を重ねて交互に円状へ積み上げ、外周から着火する。すると熱上昇気流によって風が生じ、盛んに燃焼して土器が焼き上がるのだという。今日なお原始的な生活を営む人々の間でも、これに類する焼成が行われていると思われる。


太古の土器類には、どこか強く心を惹きつける魅力が存在する。いずれの造形も思い切りが良く伸びやかであり、施された文様も然るべき位置におさまっている。自らの生活道具として純粋に制作されたがゆえに他者への遠慮がなく、作り手の主観がそのまま素直に結実しているからにほかならない。


第二章 工芸美と現代技術・材質への省察


悠久の歴史を経て、造形や意匠の手法、焼成技術は著しい進歩を遂げた。工業生産の分野では機械化や化学技術の発展が目覚ましく、完成の域に達しつつある。しかし工芸的な観点に立てば、過度な分析や合理化が、かえって美的な本質を損なう要因となっている面も否定できない。


工芸作品において最も肝要なのは「材質」の理解と尊重である。調理の達人であっても素材が悪ければ名料理を成し得ないのと同様に、低劣な材料からはどれほど技を凝らしても一定の限界を超えられない。材質の特徴を的確に引き出して自らの表現へと昇華させること、あるいは目指すべき造形に応じて最適な材料を選択することこそが基本である。この視点を堅持した上で近代的な化学技術や機械手法を批判的に採り入れる姿勢こそ、現代の作り手に求められる論理であろう。


幼子の描く図画や工作に接するとき、その素直な感覚と純粋な直感表現の強さに胸を打たれることがある。原始の遺品が持つ美もこれと同質である。文明の進展に伴い技巧は複雑化・固定化し、人の心を揺さぶる感動が失われやすくなる。工芸の苦悩はまさにここにあるが、一度獲得した知識や技術を深め抜いた上で、あえてそれらを「棚上げ」し、再び無心の原始精神へと還って仕事に没頭する——これこそが私自身の理想とするところである。


第三章 焼き物素地の分類と全国各地の土味


焼き物素地の示性成分は、主として「粘土質物」「長石質物」「珪石(石英)」の三要素に大別される。補助的に石灰分、タルク分、チタン分などを含むものも存在する。


ⅰ.磁器・特殊磁器牛骨粉を相当量混入するボーンチャイナ、石灰石を加えて低火度硬化させる石灰質磁器、タルクやチタンを加えてSK7〜8番で硬化させる特殊磁器などが存在するが、工芸用途としては一般的ではない。カオリン等の高嶺土質物を主体としSK14番程度の高火度で焼き締めるものは「硬質磁器」と呼ばれ、最も高い硬度を誇る。


ⅱ.陶器・炻器・土器粘土質物の割合が高いものを指し、長石質物が増加するにつれて磁器質へと移行する。素地の硬度は高嶺土質硬質磁器を頂点に、長石質磁器、陶器、炻器、土器の順となる。ただし常滑の朱泥やチタン磁器のように、炻器でありながら硬質磁器を上回る硬度を示す例外もある。なお石灰質磁器や長石過多の磁器は、急激な熱変化に対して割れやすい欠点を有する。


京都における陶器用胎土としては、地理的利便性と成形の易しさ、SK8〜10番の焼成適性から「信楽土」が最も普及している。含鉄粘土は全国に散在するが、瓦土のように可塑性に優れるものの耐火度が低い原土に対しては、シャモットや木節粘土等を調合して耐火度を調整する。常滑の朱泥胎土は瓦土に近似した天然風化の水簸粘土であり、鉄分が豊かで成形性に極めて優れる。


備前焼の胎土は石英分が多く耐火度に勝るが、有機物や鉄分を含むため急熱により「ブク」を生じやすい。そのため時間をかけた緩慢な焼成を要する。無釉焼成で吸水率1%以下のものは炻器に分類され、電気窯のように緩やかに昇温する構造の方がブクの発生を抑えやすい。


無釉の素地に現れる「火色」は、素地中のアルカリ分が高温で揮発し、石英分と反応して薄い自然釉膜を形成する現象(塩釉と同原理)に、含有鉄分が作用して発色するものである。備前の「火襷」もこの原理であり、藁(珪酸質)を塩水に浸して巻き付けることで人為的に鮮やかな火色を得られる。火色は薪窯焼成において最も鮮美に現れる。唐津、益子、古丹波の胎土は鉄分・砂分に富み、志野、織部、黄瀬戸、萩などの胎土は粒子が荒く高嶺土質であって、いずれも往時はかなりの高温で焼成された様子が窺える。


野々村仁清系や古薩摩の胎土は信楽土に近似するが、やや鉄分が少ない。京焼では信楽土に白倉土や三石粉を加えて仁清胎土を調製する。古薩摩はアルミナ分が豊富なため細かな貫入が生じ、硬く焼き締まって汚れが付きにくい特長を持つ。


磁器(石物)の産地としては京都、有田、出石、九谷、瀬戸、会津、砥部などが挙げられる。京都では大正初期まで天草石60〜70%に信楽土30〜40%を泥漿合わせした胎土が用いられた。天草石単体でも無貫入の磁器となるが、可塑性を補うために粘土を加えるのである。


第四章 胎土の調製と伝統的精製技法


胎土の調製において、精密度を要する磁器(石物)は設備の整った陶料会社に委託するのが望ましい。一方、陶器(土物)においては、山から採取した原土を乾燥・粉砕し、自家製調合を行うことで焼成後に野趣ある独自の面白みが生まれることがある。調製した胎土を長期保存して「寝かせる」作業は、有機物の腐敗を促して粘性を高め、乾燥・焼成時の切れや歪みを防ぐ効果があると伝承されている。


大正初期の京都における伝統的な土物胎土の精製工程は以下の通りであった。 水を入れた桶に乾燥原料を投入して攪拌し、目詰まりに応じて順次細かな篩(ふるい)へと通していく。沈殿物の上澄み水を除去(ヤブクマ)したのち、縄を巻いた素焼きの壺や、板間をあけて内部にむしろを張った枠構造の中へ流し込んで脱水させる。あるいは素焼きの「マクラ(煉瓦)」の上に泥漿を乗せ、さらにマクラを交互に重ね合わせて余分な水分を吸出・脱水し、成形に適した硬度へと調整した。こうした古法は極めて上質な胎土を生み出すが、現代のボールミル(トロンミル)による機械粉砕では砂分まで微細化されるため、土本来の素朴な性質が変化している。


磁器(石物)の端材や使いクズは、内部の微細な気泡が抜けにくいため、水簸(すいひ)による再調整が不可欠である。昭和初期まで一般に行われていた自家水簸法では、樽の用水に石クズを投入・攪拌し、120目または150目(120目は絹羽二重通しと呼ばれる)の極細篩に通す。得られた泥漿を厚手の綿布袋に収め、木板と重石、あるいはネジ式プレス機を用いて均一に搾水し、適度な固さの胎土として再利用した。


第五章 化粧掛け・施釉技法と素焼きの実際


【化粧掛け・施釉を「生(なま)」で扱う場合】

生掛け(素焼きをせず成形・乾燥直後の生素地に施釉すること)の必要性がある場合を除けば、大体は一度素焼きをした方が扱いやすく都合が良い。 石物(磁器)の生素地への施釉は比較的安全である。それでも素地自体が脆いため、取り扱いには注意を要する。しかし、素焼きの段階で急激な温度上昇によって亀裂(キズ)が入りやすい大型の作品などは、むしろ生掛けを行う方が安全なことが多い。


一方、土物(陶器)の化粧土掛けは、かえって生掛けで行う方が都合が良く、仕上がりの調子も良くなることが多い。 土物は完全に乾燥させてしまうと、かえって施釉時に水分の急激な吸収による破損や危険が伴うため注意が必要である。乾燥の一歩手前で素地の収縮が収まった頃合いが最も適している。厚手の作品であればそれほど問題にはならないが、生の素地は水を吸って膨張(一張り)したり、あるいは生乾きの状態で施釉すると乾燥過程や素地の収縮によって釉剥がれ(剥裂)や亀裂が生じたりするため、十分な注意が肝要である。特に壺や花瓶などの「袋物」の内側の施釉(内釉)にあたっては、素地の乾き加減をより一層見極めなければならない。


なお、刷毛塗りによって施釉する場合は、むしろ素地を十分に乾燥させてから行う方が良い。釉薬に布海苔(ふのり)などを混ぜ、数回に分けて乾かしながら塗り重ねれば安全である。


磁器の古くからの大生産地である中国の景徳鎮では、すべて生掛けで制作されていると聞いている。高台(糸底)の釉薬を削り落とした部分を観察すると、その特徴を見て取ることができる。青磁釉なども複数回塗り重ねることで厚く施釉されているように見受けられる。三代・真清水蔵六氏が釉薬に布海苔を混ぜ込み、乾かしながら数回にわたって重ね掛けを行っている様子を目撃したことがある。また、素焼きによって定着させる性質の釉薬であれば、一度素焼きを行った上で重ね掛けをするのも良い手法である。実際に京都陶料会社の一号石灰釉を用いて素焼き後に重ね掛けを行ったが、十分に可能であった。 スプレー(噴霧器)による施釉は均一に塗布できる利点があるものの、厚掛けが必要な釉薬の場合、焼成時に垂れ落ち(流下)やすくなる。杓掛けや刷毛塗りが最も釉垂れを起こしにくく、浸し掛けや流し掛けがそれに次ぐ安定性を持っている。


志野焼の施釉については「生掛けに限る」と先人から教わったことがある。個人的には素焼きを行っても良いのではないかと考えることもあるが、あるいは素焼きを行うことで胎土中のアルカリ成分が焼き固められ、施釉後に釉薬の表面へ成分が染み出さなくなる結果、志野特有の美しい「火色(ひいろ)」の発色が損なわれるからかもしれない。特に赤志野などは、濃密な火色の出方こそが最大の特徴となるためである。


考えようによっては、素材の個性をうまく生かすことで作品に趣や風情をもたらすこともある。作陶の心構えとして、常に材料の持つ良さを引き出すことが肝要である。


東洋、特に中国では古くから型を用いた優れた焼き物が数多く作られてきた。漢代以前から型が使われていたかどうかは専門学者の知見に譲るが、漢代の銅器の鋳造技法が陶磁の「土型」として応用されたことは容易に想像がつく。あるいはさらに古代へ遡るのかもしれない。


土型による成形は、本来同じ形を数多く量産することから始まったと思われるが、無心で作られた造形の中にも現代人の心を惹きつける美が存在する。型成形であっても、手仕事の温もりや材質自体の美しさが損なわれずに残る例は少なくない。型による造形は、紐作りやろくろ成形とはまた異なる次元の美しさを醸し出す。唐代の副葬品である明器(土偶類)や唐三彩、藍彩などには極めて優れた名品が残されている。また壺類にも意外なほど土型成形によるものが多く、特に宋代に至っては素晴らしい美意識を持った作品群に深く感銘を受ける。


【素焼きについて】

土物(陶器)の小品ではそれほど神経質になる必要はないが、大型の作品になるほど昇温過程(熱の上げ方)に十分な注意が必要となる。 作品を事前に完全に乾燥させておくことが大前提である。火にかざして炙りながら乾燥させることもあるが、自然乾燥でしっかりと乾かしてから焼成する方が安全である。薄手の作品であれば昇温時に内部まで均一に熱が伝わるが、大型で肉厚な作品になるほど中心部と外部の温度を均一に保ちにくいため、ゆっくりと時間をかけて徐々に加熱(徐熱)しなければならない。 薪窯での焼成初期、作品が水蒸気(湿気)で覆われて蒸され、煤で真っ黒になる段階が最も注意を要する時期である。この段階で安心をして急激に温度を上げてはならない。湿気が概ね抜け切ってからが本格的な昇温の段階となる。具体的には230〜250℃付近から700℃強に至る温度帯の昇温制御が極めて重要である。特に磁器(石物)で肉厚なものや、底部が平らで大型の作品は破損しやすいため細心の注意を払う。目の荒い土を用いた作品は比較的一定の耐熱性があるが、それでも肉厚なものほど完全に乾燥させてから素焼きに臨むべきである。素焼きの標準的な焼成温度は700〜750℃程度が一般的である。


第六章 成形技法の体系的分類と実際


【成形について】

胎土を用いて形を作る技法は目的に応じて自由であるが、現在用いられている代表的な手法を大別すると以下の通りである。


・紐作り(手ねじり成形)

・紐作り+叩き仕上げ

・ろくろ成形

・押型成形

・鋳込み成形

・金型、機械ろくろ成形


【紐作り成形(ねじり成形)】

作陶の入門として最も広く親しまれている技法である。完全な正円や直線的な造形を作るのはやや難しい反面、フォルムを自由に変化させることができる。全体として形の狂いが少なく、乾燥や焼成時のヒビ(キズ)が生じにくい利点がある。 手のひらで土を叩いて板状(タタラ)にして底を作り、胎土を両手で細長い紐状に伸ばしたものを輪状に積み重ね(輪積み)、目的の高さと形状に立ち上げてから表面を平らに削り整える。 日本の縄文土器や弥生土器をはじめとする古代の土器類は、ほぼこの紐作り技法によって制作されている。大型の器物においても、紐作りによって大まかな形を立ち上げてから、「叩き(タタキ)」と呼ばれる伝統手法で締め上げて仕上げる技法もある。


【叩き(タタキ)成形法】

主に大型の壺や甕の制作に用いられる。まず紐作りによって大体の形状を組み立てて表面を均し、土の乾き加減を見計らいながら、器体の内側と外側から叩き道具で挟み込み、器を回転・後退させながら下部から上部へと叩き伸ばしていく。道具には素焼きの当て具や木製の叩き板(図参照)を用いる。 叩き板の表面に筋彫りなどの凹凸を刻んでおくと、湿った柔らかい粘土が板に密着して剥がれなくなるのを防ぐことができる。さらに、この叩き板の凹凸模様がそのまま器表に転写され、意図せざる優れた装飾効果を生むことがある。叩き板に縄を巻き付けて叩けば鮮やかな「縄目文様」が形成される。これは朝鮮半島北部の壺類や日本の古代土器にも数多く見られる技法である。 こうした叩き成形は、原始的な焼き物の成立期において世界各地に広く散見される。琉球の酒壺類や古信楽の大壺なども、叩きの有無にかかわらず、紐作りをベースとした成形が各地で重用されてきたことが伺える。 今日なお継承されているかは定かでないが、山陰・出雲地方の近郊には、水甕などを引き上げる非常に興味深い伝統技法が存在する。作業台の上に底を作り、極めて太く長い土紐を肩から腕へと巻き掛けながら器体を立ち上げ、外側と内側に木製のコテ板を当てがい、作業者が後退しながら壁面の厚みを均一にならして引き上げていく。私自身は未経験であるが、高度な熟練を要する熟練技であり、完成した器体は見事な正円を誇り、まるでろくろで挽いたかのような精緻な仕上がりとなる。


信楽地方における水甕制作においても紐作り技法が用いられるが、こちらは手回しろくろを併用し、太い土紐を一本継ぎ足すごとに約3寸(約9cm)ずつ高さを伸ばしていく。これも相応の技術を要するが、私もかつて試みることができた。一定の高さまで伸ばした段階で濡れ布を用いて内外を均し、内側にコテを当てて肉厚を整えながら引き伸ばし、土が適度な硬さに締まるのを待ってさらに伸ばす工程を繰り返す。

こうして目的とする大物の形状を均一に整えていくのである。 鹿児島県苗代川(なえしろがわ)の伝統的な甕や鉢の制作では、蹴ろくろ(足踏みろくろ)が使用される。まずろくろ天板の中央に離型用の木灰を撒き、底となる粘土を叩き付けた上で、太い土紐を積み重ねて伸ばしていく。前述の技法と同様に濡れ布を内外に当てて概ね滑らかにし、外側にコテ板を押し当てながら引き伸ばし、厚みとフォルムを微細に調整する。 このように同じ紐作りであっても、叩き板やコテを内側・外側のどちらから当てるかによって、完成した器物の持つ表情や質感はそれぞれ大きく変化する。


【ろくろ成形について】

作陶の道具としての「ろくろ」がいつ頃考案されたのか、その厳密な起源は定かではない。しかし古代の土器の多くが円形であることから推測するに、紐作りで成形を行う際、平らな石などの台上で作業が行われていたはずである。固定された台の上で作業するよりも、台自体がスムーズに回転する方が遥かに効率的であることから、自然発生的に「ろくろ」の概念が考案されたと考えられる。


現代の日本では工場や工房の機械化が進み、伝統的な道具としての手動ろくろは次第に姿を消しつつある。しかし、静かに滑らかに回転しろくろが無音のまま静止していく様を観察していると、単なる無機質な道具というよりは、まるで生命体のような温もりを感じさせ、言い知れぬ懐かしさを覚える。


ろくろの種類は大きく分けて、手で回転させる「手ろくろ」と、足の蹴りによって回転させる「蹴ろくろ」に大別される。中国系の伝統技法では手ろくろが主流であり、朝鮮半島の系統では蹴ろくろが一般的に用いられてきた。西洋の歴史的道具については詳細を把握していないが、概ね蹴ろくろの系統と思われる。バーナード・リーチ氏も来日初期は蹴ろくろを使用していた。ただし同氏は日本で焼き物の技術を修得した経緯があるため、これが直ちに西洋の伝統仕様を代表しているとは断定できない。


手ろくろ(図①)は中国の系統に属し、古くから京都や瀬戸などの窯場で愛用されてきた。一方、九州地方、萩、山陰地方、九谷などでは蹴ろくろが主流を占める。丹波立杭焼では下部の回転盤が上部天板よりも大きく作られた特殊な構造(図③)を用いており、実際に試してみると慣性によって回転が長く持続するため、小物の連続制作には極めて使い勝手が良い。成形(水引き)の回転方向はいずれも「左回り(反時計回り)」であるが、蹴ろくろによる高台削り(ケブリ)作業の際は「右回り(時計回り)」に回転させる。


手ろくろ・蹴ろくろ共に機械化の波の中で消滅の危機にあるが、双方ともに代えがたい工芸的魅力を備えている。特に蹴ろくろを用いた抹茶碗の成形においては、脚の蹴り加減によって回転が徐々に減速し静止していく自然なリズムが生まれる。その回転変化の中で刻まれる指跡の繊細な表情やニュアンスは、一定速度で回り続ける電動モーターろくろの比ではない。 もちろん現代の電動ろくろも技術改良が進み、変速制御が容易になった。しかし常に均一な速度で回り続ける点は、手仕事の味という観点からはやや無機質な嫌いがある。もっとも、それも職人の熟練と手加減によってある程度は表情をコントロール可能である。特に大量の土引きや素地の引き伸ばし作業においては、電動ろくろのパワーと安定性は大変ありがたい存在であり、この工程に関しては電動ろくろに勝るものはない。両者の長所を理解して併用することこそが最も理にかなっている。

そのため私自身の工房においても、常に電動ろくろのすぐ脇に蹴ろくろを並べて配置し、作品の性質に応じて愛用している次第である。


【型成形(型押し)について】

焼き物に型を用いる技法もまた相当に古い歴史を持っている。東洋においては、陶磁器よりもむしろ金工(金属工芸)の分野で先行して型が活用されたと考えられ、古銭の鋳造などにその原形を見ることができる。また古代エジプト周辺における低火度の土偶(ファイヤンス等)の存在を鑑みると、陶工が型を使用し始めた歴史は東洋よりも西洋・中東の方が遥かに古いと思われる。 こうした歴史的考察は専門研究者に委ねるとして、作陶において型を活用することは、型成形ならではの独自の美しさや造形的特徴を発見する上で極めて意義深い。古来より多様な型成形手法が伝承されてきたが、工夫次第ではさらに斬新で優れた技法を生み出す余地が残されている。現代の工芸現場において「型」といえば石膏型(※ここでは工業用の金属型を除いた手工芸用途を指す)を用いるのが一般的であるが、石膏型が普及する以前は、焼き固めた「土型(焼土型)」が主流であった。


【型を用いた具体的技法の一例】

手のひらで粘土を叩いて均一な板状(タタラ)にし、型の内面に張り付ける。指の腹を用いて平均な力加減で押し当て、さらに粘土板を順次繋ぎ足しながら全体を均一に押し均す。この際、器全体の肉厚(身厚)のバランスを常に頭に置きながら型に密着させることが重要である。壺や花瓶などの袋物や、立体的な置物などを制作する場合は、「割型(複数に分割できる型)」を使用する。 造形の複雑さに応じて、割型はシンプルな「二分割型」「三分割型」、あるいはさらに複雑な多分割構造をとる。


現代においては吸水性に優れる石膏型を使用する方が格段に便利である。薄手で小振りの作品であれば、指先で厚みを確かめながら押し均すことで容易に成形できる。しかし、大型で肉厚な作品を制作する場合、型と接触している外側の面は型に水蒸気・水分を急速に吸収されて素早く固化するのに対し、型に接していない内側の面は湿気を帯びたままとなる。このように土の乾燥速度と硬さに著しい不均一が生じると、乾燥過程で内側の収縮に外側が追従できず、器の内面から亀裂(切割・キズ)が発生する原因となる。特に収縮率の大きい磁器(石物)の制作においては、この乾燥バランスへの配慮が不可欠である。割型を組み合わせた際に生じる合わせ目のバリ(縫い目)は、乾燥の経過を見計らって綺麗に削り整えねばならない。

土型による成形には、ろくろを併用する方法もある。外型を用いて鉢や皿、壺などをろくろと併用して引き上げると、手ひねりや通常のろくろ成形とは異なる独特の風合いが生まれる。私自身、まだろくろを自在にこなせなかった頃、器物の底から腰にかけての部分を土型に入れ、上部を紐作りで立ち上げていく方法を用いたことがある。これは初心者のみならず、目指す造形に応じて試みると独自の味わい深い調子が表現できる技法である。外型の内側に文様を彫り込んで壺などを試作してみるのも実に面白い。


【型押し成形の応用例】

「ヘゴ板(均一な厚みを持つ極細の板)」や「ヘゴ棒(四面に異なる深さの溝を彫った角棒)」を用いてタタラ(粘土板)を切り出し、型押しをする手法がある。これは手で叩いてタタラを作るより進歩した方法である。 ヘゴ板は必要な厚みに応じて何種類も用意しなければならず、大量生産以外では少々手間がかかる。その点、四面に異なる寸法の溝を設けたヘゴ棒は、一本で自由な厚みのタタラを切り出せるため極めて便利である。伸ばした土の塊にヘゴ棒やヘゴ板を当てがい、糸針金(弓切)を滑らせて切断すれば、目的に応じた適度な厚みのタタラ板が得られる。これは主に皿や鉢などの「平物」を成形する際に非常に都合が良く、内型や外型を用いて押し型成形するのに適している。 正確な寸法・形状の器物を作る際に留意すべき点は、型に粘土を当てて押し込む際、全体の厚みができるだけ均一になるよう心掛けることである。それでも乾燥後に歪みや反りが生じる場合は、「二重型(外型と中型で挟み込む型構造)」を用いると非常に良好な結果が得られる。 

磁器(石物)の型押し成形では、角や隅の部分に細心の注意を払わなければヒビ(キズ)が発生しやすい。また信楽土などの陶土で皿類を作る際、外型を使用すると底部が跳ね上がって反りやすいため、内型を用いる方が寸法の狂いが比較的に少なく安定する。内型・外型いずれの場合も、土と型の間に布を挟んで押し込むと、土が良く引き締まって綺麗な成形ができる。


【大型制作における石膏型の補強と軽量化】

大型の作品を制作する際、石膏型自体が相当な重量となり取り扱いに多大な労力を要する。また型の破損を防ぎ補強するために、石膏の層の内部に木綿(ガーゼや布)を挟み込むと非常に高い効果が得られる。原型(種型)にまず薄く石膏を振りかけ、表面がやや固まった段階で、濃厚に溶かした石膏に解した木綿布を浸し、先に固まった石膏の上に均一に敷き詰めて軽く押し定着させる。その上から再び石膏を塗り重ねて型を仕上げる。平物や袋物などで割型(多分割型)を作る場合も、型の一片ごとにこの補強工程を行う(ただし小さな分割ピースは石膏のみで十分である)。こうすることで型自体の厚みを抑えて大幅に軽量化でき、取り扱いが安全かつ容易になる。


【石膏型・素焼き型を用いた試作と実践】石膏型または土型による小皿・大皿の成形

皿形状の内型を用意する。タタラは適度な厚みに準備するが、この場合はやや厚手に引き締めた方が素朴で味わい深い仕上がりとなる。石膏型の上にタタラを乗せ、布を被せた上から全体を平均的に叩き押し当てて成形し、型から外せば成形が完了する。底面がグラついて不安定な場合は、底を軽く叩いて平らに整える。また、あらかじめタタラの上に異なる色の粘土を乗せておき、その上から型を当ててプレスすると、一種の「象嵌文様」が表現できる。施す釉薬の選定によっては非常に効果的である。この方法を応用して「練り込み」表現を試みるのも良く、型は作品に応じて内型・外型を適宜使い分ければ良い。


【練り込み技法の基本と着色】

練り込み成形を行う場合、胎土は陶土(土物)を用いるのが最も扱いやすい。異なる色の胎土を2〜3種類用意するが、異種粘土を重ね合わせるため、乾燥・焼成時の「収縮率の差」ができる限り少ない組み合わせを選ぶ必要がある。着色剤としては酸化鉄(弁柄等)を用いるのが、作調や風合いの面で最も収まりが良い。 ベースに信楽土を使用する場合、酸化鉄を約10%混ぜると濃褐色〜黒色調となり、2〜3%であれば淡い茶褐色となる。濃淡の割合は目的に応じて調整すれば良い。なお、練り込み作品に施す釉薬は、模様を鮮明に見せるため厚掛けを避けるのが鉄則である。 例えば、信楽素地と「酸化鉄10%混入土」の2種を用いて縞模様(ストライプ)の皿を制作する場合濃淡の土板を交互に幾重にも積み重ねて一体のブロックを作り、それを横に倒して糸針金で適度な厚みにスライス(裁断)する。すると綺麗な縞模様のタタラ板が得られる。これを型に入れて押し込み、土が適度に締まった頃合いを見計らって型から外す。この場合は反転させた型(逆型)を用いる方が作業しやすい。


【鶉手(うずらで)練り込み技法】

ウズラの羽根のような複雑な流動文様に似ていることから「鶉手」と名付けられた技法である。 白・黒、あるいは白・黒・グレー(薄黒)の粘土を交互に積み重ねてブロックを作り、一度裁断して向きを横転させ、再び目的の厚みに針金でスライスして模様のあるタタラ板を作り、型に当てて成形する。この際、接合面の土の目が乾燥時に亀裂を生じやすいため注意が必要である。

上記において、積層ブロックをあえて「竹ヘラや鈍刀」のような切れ味の鈍い刃物で引き切ると、粘土が刃に引かれて歪み、流れるような美しいうずら羽紋(マーブル模様)が生まれる。切断後は構造を密着させるため両側から軽く叩いて締めておく。 なお、糸針金のようにスッと切れる道具で裁断すると直線的になって羽紋が出にくいため、切り出したタタラを一枚ずつ剥がし、手に水をつけて模様の流れる方向(羽紋のライン)に沿って指で撫で削る(なでる)作業を繰り返せば、非常に優美な羽紋表現を作り出すことができる。作る器物の形状によっては、スライスする前の土のブロック自体を目的のフォルムに変形させてから裁断すると効果的である。


「墨流し(マーブル)」風のタタラを作るには、2〜3種類の異なる色の粘土を完全に混ぜ合わせず軽く手揉みし、それをスライスして型に当てて仕上げる。その他、市松模様や網代(あじろ)模様など、工夫次第で表現の幅は無限に広がる。


江戸後期の京焼の巨匠・青木木米の作品には、焼成した「土型」を用いて成形された急須や煎茶碗などの小物をしばしば見かける。この手法は中国の紫砂壺などの伝統技法から強い影響を受けたものと思われる。器表のレリーフや文様は、土型の内側に直接彫り込まれたものである。 中国においては宋代において特に型成形の優品が多く見られ、香合や盒子(こうす)などは朝鮮半島の高麗・朝鮮時代作品にも数多く見受けられる。


器表に文様を描き、その余白部分を切り抜いて「透かし彫り文様」とする技法がある。かつて紐作りで筆立てを制作した際、文様を浮き彫りとして残し、周囲の空間を切り抜く表現を試みた。型自体にあらかじめ文様を彫り込んでおき、こうした透かし彫りを応用することも十分に考えられる。


【鋳込み(いこみ)成形について】

吸水性のある石膏型に液状の粘土(泥漿:でいしょう)を流し込んで成形する手法である。近年に至って著しい発展を遂げた技法であり、主として生産合理化や量産を目的として導入された。しかしこの方法は、泥漿が型の吸水によって均一に締まるため、焼成時の歪み(焼きヒズみ)が極めて少ないという大きな長所を持つ。 中空でない厚みのある造形には「二重鋳込み法(表裏両面の型で挟み込み、空隙に泥漿を流し込む方法)」を用いる。この際、二つの型が圧力で開かないよう紐や万力で固く締め固定しておくことが重要である。泥漿の流入口に取り付ける円錐状の注ぎ筒は、トタン板や銅板を加工して長さ5〜6寸(約15〜18cm)程度に作れば良い。大型品や肉厚作品では、泥漿を高所からホースを用いて落とし込み、液圧をかけて流し込むのが良い。なお、鋳込み用の石膏型は使用前に少し水で湿らせておく方が、泥漿の吸水速度が早くなる。

鋳込み技法は美濃や瀬戸といった日本有数の大窯業地において非常に目覚ましい発展を遂げており、実際の現場を観察することに勝る学びはない。確かに鋳込み成形による焼き上がりは寸法が正確で非常に見事である。しかし、あまりに整いすぎて隙がなく、手仕事の工芸的な味わいという視点から見れば、むしろ原始的な「型押し」などの方手作りの骨太な力強さを残しているように感じられる。 しかし、創作において鋳込みを部分的に活用することで、意外な好結果を生むことがある。例えば、かつて一尺三寸×二尺(約39cm×60cm)という大型かつ複雑な輪花状の盤(大皿)を制作した際、くり抜き(彫り出し)にするか型押しにするか苦慮した末、二重鋳込み法を用いて全体に十分な厚みを持たせて成形し、半乾燥の硬さになった段階で彫刻刀による「彫り出し」の仕上げを加えることで、見事に大作を成功させることができた。


【彫り出し(くり抜き)成形について】

粘土の大きな塊で大まかなフォルムを作り、乾き加減を見極めた上で、まず外側の形状を削りだし、続いて内側を彫刻刀などで削り出して(くり抜いて)仕上げる技法である。工程としては非常に手間と時間がかかる面倒な手法であるが、完成した作品は粘土の塊から削り出されたがゆえの、圧倒的な強固さと確かな存在感を備えた造形となる。


【成形に関する補足・所感】


ⅰ.ろくろにおける技術と精神

作陶の初期において、ろくろを自在にコントロールできるようになるには相応の鍛錬と修練を要する。しかし、技法が未熟な段階に作られた作品に、かえって予期せぬ素朴な魅力や美しさが現れることがある。これは、幼児の無垢な絵画に深く感動させられるのと同様、技術への慣れがない分、作り手の素直な心がそのまま作品に結実しているからにほかならない。 もちろん高度な技術習得が必要不可欠であることは言うまでもないが、何より機械や道具に使われないという確固たる心構えが肝要である。柔らかい粘土をろくろ天板に据え、ろくろと対峙して行う作業は、いわば土との「相撲」である。土の力学に従いつつも、土の勢いに負けて崩してはならない。土を引き伸ばす工程での回転速度はそれほど問わないが、成形が進むにつれて回転を上げすぎず、むしろ低速に抑える方が作品に温かい心がこもるように思われる。高台削りなどの仕上げ工程においても全く同様のことが言える。

私の水引き(ろくろ引き)の手順としては、まず大まかに形を引き上げる「荒引き」を行い、一度カメ板に乗せて少し土を馴染ませてから、柔らかさを保った状態で最終的なフォルムを整え仕上げる手法をとっている。壺類などの制作には特に有効な方法であり、乾燥後に高台(裏)を削り整えるだけで完成させることができる。


ⅱ.タタラと受け輪を用いた小皿の成形

まず、小皿の見込み(内底)に表出させたいレリーフ文様を石膏型に彫り込んでおく。 中空の「受け輪」を用意し、その上に適度な大きさに切り出したタタラを乗せ、上から彫刻を施した石膏型を押し当てる。すると受け輪の空洞に向かってタタラが沈み込み、自然な深み(立ち上がり)が形成される。型を外し、土が適度に乾燥した段階で受け輪から外せば小皿が完成する。型押しによってフチ(口縁)に自然な揺らぎや歪みが生じ、それがかえって素朴で温かみのある良さを生み出す。タタラを切り出す際も、型紙を当ててナイフで切った刃跡をそのまま残す方が、手仕事の感覚的な美しさが表現できる。釉薬の掛け分けによって多様な楽しみ方ができる手法である。


ⅲ.異色土を用いた象嵌(ぞうがん)風型押し成形

外型あるいは内型を使用する。胎土として異なる色彩の粘土を2〜3種類用意する。象嵌として埋め込む異色土をやや固めに調整しておき、それを型に当ててプレスすると、硬度の差によって質感や凹凸に絶妙な変化が生まれ、釉薬の流動と相まって非常に効果的な意匠となる。

タタラの上に適宜異色の粘土を用いて文様(模様)を配置しておく。そこに石膏型を当てがい、そのまま反転(逆転)させて、型押し成形と同様に布を当てて指で撫で押し仕上げ、再び元に起こす。その際、型崩れや歪みが生じないよう、下部に土の輪や支えを置いておく。 壺のような立体構造のものでは、象嵌用の異色土を配置し、その上から平らな板等を押し当てて密着させ、文様の位置がずれないように固定する。象嵌土をやや固めの状態にしておくと、焼成時に凹凸の陰影が生まれ、釉薬との相性によって非常に効果的な表情となる。


【練り込み彫り出し(くり抜き)成形】

粘土を練り込む方法は好みの調子で差し支えない。前述したように、まず外側のフォルムをきれいに整えておき、土が適度な硬さに締まった頃合いを見計らって内側を彫り出して(くり抜いて)仕上げる。 この技法で大きめの盒子(合子・蓋物)を制作してみたが、意外なほどがっしりと引き締まった強い構造が得られた。


【小口壺などの制作に関する一案】

ろくろ引きによって胎土を十分に高く引き伸ばしたのち、上部の口を完全に閉じ(密閉し)、器表の面を滑らかに整理する。扁壺などを制作する場合、密閉した状態で両手で側面を押し潰すように圧力を加えると、押されていない部分が内部空気の圧迫によって自然と柔らかく膨らむ。また指の腹などを使って意図的な凹みをこしらえると、内部の空気が逃げ場を失うため、凹ませた箇所の周辺が豊かに膨らみ、ふっくらとした張りを持つ立体フォルムが形成される。 ただしこの際、水引きの段階で厚みが均一になるよう丁寧に削り引きを行っておかないと、薄い部分だけが不自然に大きく膨らんでしまうため配慮が必要である。なお、口径の大きい器物では内部の密閉効果が薄れるため、あまり大きな効果は期待できない。目的とするフォルムが得られたら、ナイフ等で開口部を切削して口を開ける。


【密閉ろくろ成形による蓋物等の制作】

前述のように一度口を完全に閉じた密閉状態の筒を引き上げ、適当な位置で針金や針等を用いて切断すると、精密な合わせ口を持つ盒子(蓋物)を制作できる。切断面を斜め(印籠状)にカットしたり、あるいは波状の曲線に切ったりすると、蓋としての合口の安定性が増し、脱落を防ぐことができる。 また、通常とは逆向き(上下逆)にろくろで引き上げて頭部を密閉し、針などで切断したあと、土が適度な硬さに固まった段階で高台を取り付け(または土紐を巻いて高台を削り出し)、乾き加減を見計らってひっくり返せば、口縁部の厚みが案外しっかりとした頑丈な口造りの器体が完成する。この手法においても、水引きの工程で内側の指筋の残り具合や土の引き伸ばし方を十分に考慮することが肝要である。器体内部の膨らみや内壁の面処理の質感が、最終的な作品の出来栄えや風合いに大きな影響を及ぼすからである。


【練り込み彫り出し(合子・大箱の制作)】

粘土の組み合せや練り込み表現は前述と同様に行い、仕上げの手順も既述の通りである。 かつて大型の合子(大箱・蓋物)を制作した際の経験であるが、外形のフォルムを整えたのち、凹凸の深い印花文様(スタンプ)や、あらかじめ彫刻を施した石膏型を用意し、型と同程度の大きさの粘土板を押し当てる。この際、思い切って強くプレスすることで、非常に力強い立体感を持ったレリーフ表現が得られる。土が柔らかいうちに上下(身と蓋)を切断・分断しておき、双方向の内側を彫り抜いて(くり抜いて)から、図の合わせ口(合口)を削り出して接合・固定する。


第七章 電気窯の構造と本焼成法(酸化・還元)の実際

【電気窯の使い方と乾燥・空焼き】

築窯直後は窯内部の水分を十分に除去することが肝要である。そのため、700℃〜750℃程度での素焼きを数回行うか、あるいは空焼きを行って完全に乾燥させる。

 

【熱上昇時の注意点】

作品の大きさや肉厚によって多少異なるが、1時間に50℃以内のゆっくりとした昇温ペースであれば概ね安全である。特に300℃〜500℃付近の温度帯は最も注意を要する。ただし小品の場合はそれほど過度に心配する必要はなく、全弱で2時間ほど保持した後に全強へと切り替えても差し支えない。大型の作品であっても、700℃付近に到達すれば全強に切り替えても安全である。

300℃〜500℃の温度帯は、薪の焚窯で言えば窯内に厚くスス(煙)が立ち込めている段階の温度に相当し、700℃〜750℃付近は素地中の石英分等の熱膨張が最も激しくなる時期である。石英分が極限まで膨張するピーク温度は750℃付近と言われているため、700℃を超えてしまえば急激に加熱しても破損の危険は極めて少ない。

 

【本焼成の操作手順(筆者の実践例)】

現在当工房で行っている本焼成の手順は以下の通りである。

ⅰ.夕方5時〜6時:全弱を入れる。

ⅱ.夜10時〜11時頃:上線と下線を「強」にし、早朝までそのまま放置する。

ⅲ.早朝(700℃〜800℃到達時):全強に切り替える。この手順を踏めば日中の明るいうちに焼き上がる。

なお、極めて大型の作品や肉厚な作品を焼成する場合は、250℃〜200℃付近でまず上線を「強」にし、1〜2時間後に上下線を「強」にする。上線または下線のどちらか1本だけを「強」にした場合は「1本強・2本弱」の状態となる。ただし「強2本」に設定した場合、弱1本を入れてもその弱線には電流が通らない構造となっているため留意されたい。

 

【冷却(さまし)の工程】

冷ましの段階では昇温時と逆の管理を行う。700℃付近までは急激に温度が下がっても割れ等の心配はなく安全であるが、それ以下の温度帯に下がった場合は注意が必要である。それでも電気窯の場合、600℃付近まで下がれば上蓋を少しずらし、200℃に到達すれば上蓋を完全に外しても、大抵の場合作品に不具合が生じる心配はない。

 

【酸化焼成(O.F:Oxidation Firing)本焼】

焼成の基本手順は前述の通りである。作品の性質により多少の差はあるが、最高温度は概ね1220℃〜1250℃を目安とする。1230℃付近でゼーゲル錐(SK)の9〜10番に相当する。昇温の遅速によって焼き上がりの質感に多少の差が生じる。

目標とする最高温度に達したのち、中線のスイッチを切り、上線・下線を「強」に維持したまま30分〜1時間保持(ねらし)して切ると、作品の内部まで熱が十分に通り均一に熟焼する。これがいわゆる「仕上げ」の工程である。中線を切り上下線のみを強にした状態であれば、窯内の温度はさほど下がらない。念のため窯内部にゼーゲル錐を立てて観察すると良い。また、吹出穴(覗き穴)から視認できる位置にゼーゲル錐を立てておくのも確実な方法である。

酸化焼成の場合、700℃付近(大物の場合。小物の場合は200℃〜250℃付近)で「強」に入れておけば、10〜11時間ほどで1000℃前後に達する。

 

【還元焼成(R.F:Reduction Firing)本焼】

酸化焼成と異なる点は、900℃付近から窯内に薪を投入して意図的にくすぶらせる点にある。使用する薪の太さは、焚窯で用いる差木(差し木)程度で良い。還元をかける温度帯は900℃〜1170℃付近である。特に950℃〜1050℃の温度帯では比較的に強く燻らせるのが良い。吹出穴から5寸(約15cm)ほどの炎が勢いよく吹き出し、煙が噴き出す状態を維持する。

950℃以上になったら、二次空気はできる限り窯内に入れない方が良いが、吹出穴の火加減を常に観察しながら焚き進める(二次空気が必要以上に入ると発色や還元状態が変化しやすいためである)。1170℃付近からは軽く燻る程度に調整する。

1200℃付近に到達したら、燃え残った薪を外へ出し、煙突のダンパー(煙道弁)を閉じて、窯内の還元ガスができるだけ外部へ拡散・脱出しないよう遮断(サエ)するのが最良である。焚口の薪が完全に燃え尽きた頃合いを見計らい、焚口と二次空気穴を泥で密閉して冷たい空気が一切入らないようにする。これは窯内全体の温度を均一に保ち、徐冷するためである。

吹出穴から出る焔の長さは4〜5寸(約12〜15cm)を切らさず出し続けるのが望ましい。900℃〜1000℃近くまでは二次空気量を微調整して焔の出方をコントロールし、1000℃〜1050℃付近で最も煙が多く発生するため、その段階では二次空気を完全に止めて煙の過剰な噴出を抑える。1050℃を超えてからは、火が途切れない程度に薪を2〜3本ずつ投入すれば良い。なお、釉薬の表面に艶が乗り始めてから過度に火燻(ひくべ)を続けすぎると、白釉などの場合に発色が汚くなり悪影響を及ぼすことがある。

15K(キロワット)容量の電気窯で1回の還元焼成に使用する薪の量は、京都束で1束半程度で十分である。薪を入れる目的は一酸化炭素(CO)を発生させて還元状態(R.F)を作るためであり、薪がどんどん激しく燃え尽きてしまわないよう制御する方が良い結果を生む。

 

【釉薬のガス発生と電熱線の管理】

ガラス系、バリウム系、チタン系などの釉薬は、焼成中に内部から気泡(ガス)を発生させやすい。その場合は1000℃付近まで上蓋を少し空け、釉薬から放出されるガスが窯外へ拡散・脱出するよう通気性を保ち、1000℃を超えてから蓋を完全に閉じると良好な結果が得られる。

電熱線(ヒーター)の保守においては、熱線に釉薬や塩類を絶対に着出・付着させないよう細心の注意を払う。一度焼成に使用した電熱線は非常に脆くなり折れやすいため、線自体にキズを付けたり無理に折り曲げたりしてはならない。万一、止め釘が抜け落ちたり緩んだりした場合は、注意深く予備の釘を打ち込んで固定しておくことが重要である。

 

第八章 窯詰めと窯道具・棚板の保守管理

【配電スイッチの安全操作と窯詰め】

窯詰めに際して最優先で徹底すべきは、必ず元の配電板(配電盤)の主スイッチを切っておくことである。スイッチを入れたまま作業して誤って熱線に触れると、感電事故を引き起こす極めて危険な恐れがある。焼成終了後も同様に、必ず元スイッチを切る習慣をつけることが安全上不可欠である。

窯に火を入れる際は、まず配電板の元スイッチを入れてから、電気窯本体のスイッチを入れる順番を守る。

窯内の熱線は「上段」「中段」「下段」の3系統に分かれている。「強」に切り替えた場合は、上段のみ、あるいは下段のみといった単独の系統だけでも電流が流れる構造になっている。しかし「弱」に設定した場合は、上・中・下のいずれか1系統だけを入れても電流は通らない。必ず2系統以上を同時に入れて初めて電流が通る回路設計となっている。

 

【窯道具の材質と調合】

耐火度が高く可塑性(粘り気)に富む木節粘土(別名:童仙坊)は、窯道具の制作に極めて都合が良い。

カーボランダム(炭化珪素)製の棚板やツク(支柱)は非常に優れているが、作品や棚組の高さに応じて継ぎ合せを行う際などに大変便利である。

市販のカーボランダム製ツクには多種の寸法が存在するが、わずかな寸法の狂いによって不経済が生じることがある。このような場合、自前で粘土製のツクを自作して備えておくのが良い。その際に使用する粘土は、「木節粘土 5:信楽土 5」の割合でしっかりともみ合わせて作ると良い。

 

【ツクの造り方ともみ合せ手法】

粘土のもみ合せは、木節粘土と信楽土の双方の土玉を薄く切断し、交互に何層も積み重ねてからもみ合わせることで、均一な土質に仕上げる。

ツクを制作する際は、粘土を棒状に伸ばして適当な寸法に切り揃え、平らな板の上で両端を叩いて成形する。各ツクの高さの寸法が完全に同一になるよう精度高く作っておかなければ、棚積みの際に棚板がガタついて安定しないため注意を要する。

 

【アルミナによる焼き付き防止とトチンの活用】

棚積み時、棚板と作品の底面(高台)が焼き付いて付着するのを防ぐため、酸化アルミナ(アルミナ粉)を使用すると都合が良い。珪石粉を用いても良いが、珪石は素地や釉薬の塩基性成分と反応して溶融・着出しやすいため、耐火性の高いアルミナを使用する方が遥かに安心である。

使用時は、アルミナ粉を晒し布(さらし)などに包み、作品の底面や棚板に軽く振りかければ良い。粉は薄く散らばる程度で十分である。

ただし、非常に流下(釉垂れ)しやすい釉薬を施した作品を焼成する場合は、木節粘土で制作した「トチン(捨て台)」を作品の高台と同じ大きさに作って下に敷き、作品とトチンの間に「アルミナ粉に布海苔を混ぜ合わせたもの」を塗って付着・固定させる。この場合のアルミナ層の厚みは、通常より割合厚めに設定する。

 

【棚板の補修と表面化粧塗】

釉薬が流れて棚板の表面に固着するなど、棚板にキズや損傷が生じた場合は、建築材料店等で入手できる小さな「タガネ」を当て、金槌で叩いて付着物をきれいに剥ぎ取る(棚板に直接金槌を当てて叩くと板自体が割れる恐れがあるため、必ずタガネを噛ませる)。

剥がしたのち、その表面に丁寧に「化粧土(補修剤)」を塗り、十分に乾燥させてから、荒い砥石(カーボランダム砥石)で磨いて表面を元の平らな状態に復元する。

この補修に使用する材料は棚板メーカーから購入するのが確実であるが、代用として自家調合する場合は、「木節粘土(120目粉末)30:アルミナ粉 30:三石粉 30」の割合で調合し、布海苔液を加えて混ぜ合わせたものを塗布すると良い。

 

第九章 フリット(熔塊)の制作と軟釉(低火度釉)の調合計算

【本窯を利用したフリット(熔塊)の制作】

目的とする原料を調合し、濃く解いて準備した耐火容器(匣鉢等)に入れ、本窯の焼成時に作品と一緒に入れて溶融させる。フリットの溶融温度は1150℃前後で十分に溶けるが、特別な温度設定をしなくとも本窯の作品焼成温度と同居させれば良い。ただし、本窯でフリットを作る場合の絶対条件は「酸化焼成(O.F)」で行うことである。

フリット原料を匣鉢(サヤ)に入れて窯に詰めるが、万一匣鉢が割れて中のフリットが流出すると、窯内や他の作品を汚して甚大な被害が出るため、絶対に割れないよう細心の注意を払わねばならない。溶けたフリット釉は薄い水飴状の流動体となるため、重ねて厳重な注意が必要である。

匣鉢の内部には、あらかじめ「布海苔で解いた珪石粉」を厚めに塗布しておく。焼成後、窯から出したら容器である匣鉢を割り、フリット表面に付着した珪石をグラインダー等で丁寧に削り取る。その後、フリットを暗赤色(約600℃〜700℃)になるまで再加熱し、一気に冷水中に投入すると熱ショックによって細かく砕け散る。これをポットミルに移して粉砕し、細かい粉末にする。匣鉢の内側に珪石を塗っておくのは、固まったフリットが容器から剥がれやすくするためである。なお、容器としては匣鉢よりも黒鉛製の正式なルツボ(坩堝)を使用する方が破断の恐れがなく安心である。

専用のフリット窯を使用する場合は、溶けたフリットを底穴から流出させて下部に置いた水中に落下・破砕させる方法や、窯内のルツボから柄杓で汲み出して水中に投入する方法がある。フリット内部に含まれる不要なガスはなるべく拡散・放出させる方が良質なフリットとなるため、後者の汲み出し法がより優れている。

フリット窯で量産するよりも、本窯でじっくり焼成する方がフリット自体の品質は格段に上質になるが、大量に作る場合は解体や粉砕に最も手間を要する難点がある。

 

【軟釉(低火度釉)の基礎と原理】

「軟釉(低火度釉)の溶融点は一般に700℃〜800℃付近が普通であるが、1000℃前後のものや、中には1150℃〜1160℃付近で溶けるものも存在する。

主に鉛、ソーダ(曹達)、硼砂、カリ(加里)、バリウム、石灰石などを強烈な溶剤(フラックス)として珪石類に配合して作られる。

筆者が長年の実験で使用してきた代表的な原料の化学特性は以下の通りである。

・BaCO3(炭酸バリウム):白色粉末、水に不溶

・CaCO3(石灰石):白色粉末、水に不溶

・PbO(酸化鉛):帯黄色粉末、水に不溶

・PbCO3(炭酸鉛):白色粉末、水に不溶

・Na2CO3(無水炭酸ソーダ):白色粉末、水に可溶

・Na2B4O7 +10H2O(硼砂):白色稍結晶状粉末、水に可溶

・K2CO3(炭酸カリ):白色粉末、水に可溶

水に可溶性の原料(炭酸ソーダ、硼砂、炭酸カリ等)を釉薬に使用する場合は、そのまま施釉すると水に溶け出して素地に吸収されてしまうため、あらかじめ一度加熱・溶融してガラス化(フリット化)させる必要がある。

特に硼砂は、焙楽(ほうらく)等を用いて火にかざすと結晶水が蒸発して著しく著しく膨張(フクレ)するため、生原料のまま使うよりも一度焼き固めた「焼硼砂(無水硼砂)」にして使用する方が作業上非常に都合が良い。

 

【焼硼砂の調合計算例】

生硼砂(Na2B4O7 + 10H2O)の分子量(調合量)は 191.7 であり、結晶水を飛ばした焼硼砂(Na2B4O7)の分子量は 101.3 である。

調合処方において生硼砂を 50% 使用する指定がある場合、これを焼硼砂に置き換える計算式は以下の通りとなる。

191 : 101
50 : x = 26.38

したがって、生硼砂50%の代わりに焼硼砂を大体 26.38% 配合すれば同等の化学組成が得られる。

大量生産の場合はフリット窯を使うのが効率的であるが、個人作家においては本窯の酸化焼成を利用してフリットを作る方が案外簡便であり、上質な低火度釉を得るのに非常に便利である。

 

第十章 上絵用顔料(和絵具・洋絵具)と金銀加飾技法

【上絵用顔料(和絵具と洋絵具)の特徴】

上絵付けに用いられる顔料は、大きく分けて「和絵具」と「洋絵具」の2種類に分類される。

前者の和絵具は焼成後にガラス様の高い「透明性」を示し、後者の洋絵具は「不透明性」を呈するのが基本特性であり常識である。

洋絵具は陶料店で市販されており、色彩の種類が極めて豊富である。和絵具を自作する際の基礎となるガラス釉(フリット)に適量の洋絵具を混ぜて使用するのも良い方法である。ただし洋絵具の場合、その化学調合の種類によっては、薄めて使用した際に全く想像もしない意外な発色を示すことがある。

例えば洋絵具の「黒」は、鉄、コバルト、クロムなどを配合し、ガラス溶剤と共に一度焼き固めて粉砕した粉末である。そのため、水や油で薄く伸ばして描いた場合、発色強度の最も強いコバルトの青色が前面に出て、青みがかった黒色になることがある。

古来より中国から伝来した伝統的な和絵具の種類は、主として「赤、緑、黄、紫、黒(および藍)」などが基本体となる。

清朝時代に至り、「粉彩(琺瑯彩)」などの極めて繊細で美しい顔料が用いられるようになったが、これはガラス質溶剤に洋絵具の成分を配合して調製されたものと考えられる。そのため、その透明度は伝統的な和絵具に比べてやや不透明な質感を持つ。

筆者としては、透明感と深みのある伝統的な和絵具の風合いを特に好み、長年愛用してきた。

 

【上絵用赤顔料の選定と技法】

赤色顔料(赤絵具)は陶磁器顔料店に多種多様なものが販売されているため、作風に応じて適宜取捨選択すると良い。

筆者が愛用する古赤絵系の赤は、比較的落ち着いた渋い発色を示すものであり、主として磁器(石物)の素地によく適合する。一方、陶器(土物)などに施す場合は、少し華やかで鮮やかな市販の上絵赤を用いた方が色彩の収まりが良いことが多い。

素地にまず赤を全面的に塗り(赤地塗り)、それが乾いた上から緑や黄などの和絵具で文様を描き込むと、非常に趣のある深い調子の作品に仕上がる。

 

【金襴手(きんらんで)技法】

赤地に金を施す「金襴手」技法も上記と同様の手順で行う。

まず全面に赤絵具を塗り、一度上絵窯で焼き付けて(一夜焼き)固定させたのち、その赤地の上に金泥(金粉)を用いて繊細な絵付けを施し、再度焼成して仕上げる。

 

【金泥・銀泥の調合比率と研磨仕上げ】

金・銀による加飾を行う際の適切な調合配合比率は以下の通りである。

金(金粉・消金)の調合

金粉(金箔をすり潰して細かい粉末にした消金)10 に対し、和絵具(黄色系)または西洋黄(洋絵具の黄)を 1 の割合で打つ(混合する)。

・銀(銀粉)の調合

銀粉 10 に対し、和絵具(無色透明系)または白盛り絵具を 0.5 の割合で打つ。


金泥・銀泥ともに、上絵窯での焼成直後は表面がマット(艶消し)な状態となっている。焼成後、ガラスブラシ(硝子刷毛)、極細目の紙ヤスリ(耐水ペーパー)、あるいはメノウ(瑪瑙)の棒を用いて表面を丁寧に磨き上げる(研磨する)ことで、眩いばかりの金属光沢が滑らかに現れる。


第十一章 和絵具の秘伝調合・素地適合と特殊装飾技術

【赤色(単体使用)の調合と塗り技法】

・普通:伊勢久1号九谷赤 100 / 光明印紅板(紅鉢) 5 / 酸化アンチモニー 3

・強(渋味):伊勢久1号九谷赤 100 / 光明印紅板 10 / 酸化アンチモニー 10

・やや黄味(帯黄・鮮明):伊勢久1号九谷赤 100 / 酸化アンチモニー 3

赤絵具は微細な粉末に精砕すればするほど、発色する赤色が美しくなる。これは赤絵付けにおける絶対条件である。

赤絵具を解く(溶く)際には、上等なお茶(濃茶)を用いると良い。お茶に含まれる成分による適度な粘り気が生じ、非常に扱いやすくなる。日本画の画の具を解くように膠(にかわ)を混ぜるのも有効であるが、多量に与えすぎてはならない。膠を混入すると広い面積に塗る際にも塗りムラを生じずに均一に塗布できるが、焼成時にやや流れ落ち(流下)やすくなる傾向がある。

また「タタラ・タタキ」と呼ばれる技法においては、赤絵具をバルサム油(テルピン油系)で十分に擦り合わせる。ガラス板や磁器製の乳鉢・乳棒などの道具を用いると上絵具の調整に極めて便利である。極めて目の細かい木綿布で脱脂綿を包み、そこに絵具を染み込ませて作品の表面にポンポンと叩き付けるように塗り重ねる。これを丁寧に繰り返すことで、ムラのない極めて滑らかな面塗りが可能となる。

すべての上絵付け焼成において、素地や絵具の水分は完全に除去しておかなければならない。しばらく使用していなかった上絵窯(錦窯)は、窯詰めを行う前にあらかじめ予熱(焙り)を行って内部の湿気を抜いておく。上絵窯は「酸化焼成」で行う。一般的な錦窯の焼成温度帯は700℃〜750℃前後であり、本手記で記載する調合においては730℃を適温・標準とする。

 

【和絵具用緑釉の基礎調合の動機】

和絵具用の緑釉基礎調合を「唐土 77 : 珪石 23」と決定した動機は、唐代の「唐三彩」における黄釉が、赤土(含鉄土)と鉛系溶剤の配合によって作られていた点に着想を得たことによる。唐土(鉛系化合物を主とする白土調合)は、熱膨張や収縮に対して比較的広い柔軟性(耐通性)を持っている。この特性に着目し、唐土と珪石の配合比率を細かく段階的に変化させて試焼を重ねた結果、77:23 という絶妙な一致点を見出したものである。

また、上記調合であらかじめフリット(ガラス化)を作り、生釉に適量混入すれば溶融がより滑らかになる等の効果が得られる(必ずしも必須の工程ではない)。素焼き素地に施釉する場合は、配合比率を適宜強めに調整すれば良い。

珪石の代わりに天草陶石や長石類で置換することも可能であるが、長石類は結晶水を含まないため、扱いやすさの面から長石類に置き換える方がより好ましいだろう。鉛の供給源となる酸化物としては、鉛丹(赤色)、酸化鉛(黄味を帯びた色)、唐土(白色)のいずれを用いても差し支えないが、組成上の比重バランスの観点から「唐土」が最も扱いやすく適している。

【緑色和絵具の調合割合と剥裂防止】

・濃緑:唐土 77 / 珪石 23 / 酸化銅 4

・普通:唐土 77 / 珪石 23 / 酸化銅 3

・筆者常用:唐土 77 / 珪石 23 / 酸化銅 3.5

着色剤として使用する酸化銅(CuO)は炭酸銅(CuCO3)で代用しても良い。酸化銅から炭酸銅へと置換する場合、CuO 4%に対して CuCO3 の6%配合比率で換算する。

和絵具をすでに本焼き・施釉された無貫入の磁器素地に広い面積で厚く塗り重ねると、冷却時に絵具膜がペロリと剥がれ落ちる「剥裂(はくれつ)」を起こしやすい。私自身もこの剥裂現象には長年非常に苦しめられた。

一般的な和絵具の古記録を調べると、多くの場合「有鉛白玉(鉛フリット)」が混合されている。しかし市販の白玉フリットを分析・実験したところ、「有鉛」と称しながらも実際にはソーダ(Na)やカリ(K)成分が混入していることが判明した。これらのアルカリ成分は熱膨張率が極めて大きいため、膨張・収縮の起きにくい無貫入磁器素地との熱膨張の差に耐えきれず、焼成後の冷却過程(冷め際)で素地との収縮差に引っ張られて剥裂を引き起こすのである。

そこで私は、膨張収縮への対応力(耐通性)に優れる「純粋な鉛分」のみを単独の溶剤として選択した。

なお、貫入(細かいヒビ)が存在する陶器(土物)素地であれば、溶けた和絵具が貫入の隙間にしっかりと喰い込んで投錨効果を生むため剥裂する心配はない。したがって陶器に施す場合は過度な配慮は不要であり、通常の和絵具のように適宜白玉フリットを混入させても安全に焼成できる。

 

【古九谷の和絵具と素地特性の考察】

古九谷の名品を観察すると、広い面積に緑や紫などの和絵具が濃厚に施されているにもかかわらず、全く剥裂を起こしていない。古九谷の胎土は釉薬に貫入が入らないほど密度の高い粘土質素地であり、京焼などに比べて耐火度が強く、高火度で極めて硬く焼き締められている。その素地の質感・色合いは陶器(土物)に近い趣を持っている。

この素地特性ゆえに、緑や紫の上絵具と素地自体の熱膨張・収縮率が極めて近い数値を示し、剥裂を起こさないのだと考えられる。また、古九谷の上絵焼成温度も通常よりやや高めの 750℃〜760℃ 近辺の強火で焼かれていると推測される。

さらに、調合における珪石も純珪石ではなく、適度に長石成分(アルミナ分)を含んだ原土を鉛と調合していた様子が伺える。珪石の代わりに天草陶石や長石を使用しても良く、アルミナ(礬土)成分が適度に加わることで、上絵具の発色に落ち着いたしっとりとした深い艶が生まれる。

古九谷の骨描き(黒色の線描)に使用された黒絵具は、おそらく地元産の「能登呉須(マンガン含有鉱石)」と思われる。

なお、本窯で発色させる紅絵具(ピンク・赤系)は、紅板の代わりに「金粉」を添加し、アルミナ等と共に調合して一度高温で焼き返して(フリット化して)作られるものである。

 

【和絵具の各種調合と使用法】

赤色や黒色を除き、透明感を持つすべての和絵具は、水と共に乳鉢で極めて微細になるまで磨砕(水磨き)し、一度乾燥させたのち、布海苔液を加えて再度入念に擦り合わせて使用する。泥絵具のように厚く盛るように塗るのが基本である。

 

・黄色和絵具の調合

ⅰ.(洋絵具黄色併用・筆者推奨):唐土 77 / 珪石 23 / 洋絵具黄 10

ⅱ.(伝統的紅板併用):唐土 77 / 珪石 23 / 光明印紅板 2〜3

洋絵具の黄色を配合する①の処方が非常に簡便であるため、私は主に①を用いている。紅板(弁柄)を配合するよりも市販の上絵用赤(または洋黄)を添加する方が扱いやすく、10%以内の混入で綺麗な黄色が得られる。中国古代の陶磁器、古九谷、柿右衛門などの伝統作品では、大半が紅板(微量弁柄)を失透・呈色剤として用いていたようである。紅板配合の黄色も実際に試みたが、正確な記録がないため、使用に際してはあらかじめ色見(テスト焼成)を行う。

 

・紫色和絵具の調合

ⅰ.調合比率:唐土 77 / 珪石 23 / 本窯用正エンジ 0.5 / 酸化マンガン 1.0

(紫色は黄色や緑色に比べて発色度が強いため、マンガンの添加量は極力控えめに微調整する。)

紫色の呈色剤として古来「唐呉須」が用いられたと記録にあり、私自身も使用した経験があるが、唐呉須を用いると融点が高くなり溶けにくくなる難点がある。そのため酸化マンガンを使用する。いわゆる「純登呉須」と称される原料もマンガン系である。上記の調合で発色が派手すぎる場合は、マンガンの量を極力微量に抑えて調合すると良い。

 

・藍色(紺青)和絵具の調合

ⅰ.調合比率:唐土 77 / 珪石 23 / 洋絵具紺青 5

呈色剤として便宜上「洋絵具紺青」を使用しているが、本質はコバルトによる発色である。本窯用の焼後コバルトや、硝酸コバルト(熱湯で溶解し、アンモニア水を加えて沈殿させたものを乾燥して使用)を用いても良い。ただしコバルト系化合物は極めて発色力が強力であるため、1%程度の微量から段階的に色見(テスト)を行わねばならない。

 

・黒色(骨描き用)和絵具の調合

古来より「唐呉須」や「能登呉須」と呼ばれるマンガンを含有する天然鉱石原料が用いられてきた。古九谷の骨描き(輪郭線)にも色が使われていたと考えられる。透明な和絵具(緑や紫など)を下重ね・上掛けする場合は、呉須単体(単味)で描けば良い。上絵具を上掛けせず黒線のみを露出させる場合は、削れを防ぐため溶剤(ガラス質)を混入させる。なお、単純な黒色線描のみを施す場合は、市販の「洋絵具の黒」を用いるのが最も手軽である。

 

・基礎調合における珪石の置換

基礎調合の中の珪石は、天草陶石や長石類に置き換えても極めて良好な結果が得られる。「天草石 80 : 唐土 20」あるいは「長石 80 : 唐土 20」あたりの比率を基準として適宜増減させると良い。長石や陶石を混ぜることでアルミナ(礬土)分が加わり、上絵具の化学組成が磁器素地の成分に近づくため、密着性と発色に深みが生まれるのである。かつて京都では「日の岡珪石」と呼ばれる原土が愛用されたが、これは珪石としては純度が低く適度に粘土分を含んでいたため、かえって上絵具の溶融と密着において非常に効果的であった。

 

【人工銀化技術とトルコ青釉・磁州窯系下絵具の応用】

戦時中、底の割れた壺を庭の土中に半ば埋め、その中に磁器の色絵小品を入れて10年ほど放置したことがあった。後年それを取り出してみると、底の泥水に浸かっていた色絵作品のうち、緑色の和絵具部分が完全に「銀化(ぎんか)」を起こしており、擦っても容易に剥がれない状態になっていた。銀化現象は古代ガラス等のソーダ($\text{Na}$)成分のみならず、鉛系釉薬(和絵具)においても同様の変化が生じることを実証した貴重な経験である。

この古美術品に見られる幻想的な銀化現象を、人為的に一夜にして発生させる手法を発明した。塩化錫(SnCl2)の水溶液で砂を湿らせ、その湿った砂の中に作品を埋め込み、100℃前後の温湯程度の熱を保ちながら放置すると、僅か一夜にしてトルコ青釉や楽釉の表面に美しい銀化皮膜が生成される。特に銅($\text{Cu}$)を呈色剤とする緑色・青色系釉薬において最も強力に反応が出現し、あたかも出土古美術品のような格調高い銀化肌が得られる。

 

銀化処理の配合と条件:水 100 に対し 塩化錫 5g を溶解した液で砂を濡らし、砂の温度を約 100℃ に維持して一晩放置する。

 

ペルシャなど中近東地域では古代より天然ソーダ(アルカリ)資源が豊富に産出したため、古代ガラスや「トルコ青」と称される華麗な青緑色の陶器が数多く制作された。低火度軟質釉において、呈色剤に銅(Cu)を用いた場合、溶剤に「鉛」を使用すると鮮やかな緑色(織部系)となり、「ソーダ(アルカリ)」を使用すると美麗な鮮青色(トルコ青)に発色する。これは実作上動かしがたい化学的真実である。

エジプト等の古代出土品を観察すると、その胎土は鉄分が少なく珪砂(砂分)を多く含み、極めて低温で焼き締められた脆い質のものである。これが長年土中に埋もれることで釉薬表面が銀化し、玉虫色の神秘的な光沢を放つに至る。乾燥した中東の気候ゆえに形状を留めているが、日本の如く湿気の多い環境下では風化・解体が進行しやすい。かつて唐三彩の明器(土偶)の破損部を石膏で修復した際、水分が素地に浸透しただけで土が水に溶けて解体してしまった経験がある。

なお、無鉛白玉(ソーダ系アルカリフリット)を使用した作品は、フリットの可溶性成分の残留によって、梅雨時などの高湿度時に釉面へ白い粉(遊離ソーダ分)が噴き出す現象(カビ・結晶化)が見られることがある。しかし、これは発生するたびに布で根気強く拭き取っていれば、やがて噴出は収まり、釉面本来のしっとりとした深い光沢へと落ち着いていく。自家製フリットであっても、溶融時のガス脱出が不十分な場合に同様の現象が観察される。

・絵高麗黒(磁州窯系 鉄黒下絵具)の調合

ⅰ.調合比率:酸化マンガン 15 / 酸化鉄 30 / 天草陶石 40 / 土灰 15

上記は、宋代磁州窯や絵高麗に見られる力強い黒絵文様、あるいはトルコ青釉の下絵として黒色線描を施す際に最も好適な黒色下絵顔料である。配合する酸化鉄(弁柄)は純度75%以上の高品質なものを使用する。純度が低い原土を用いる場合は添加量を増量して調整する。本窯(高火度焼成)において、生素地や生釉の上に直接描く下絵具としても非常に優れた調子を示す。使用時は布海苔液を混ぜて擦り合わせて使用する。

・河井寛次郎 秘伝・トルコ青釉調合

ⅰ.無鉛白玉(ソーダフリット):100

ⅱ.酸化錫(SnO:失透剤):1.5

ⅲ.炭酸銅(CuCO:呈色剤):4.2 〜 2.6(作調により 4 〜 5%)


第十二章 故・河井寛次郎先生発表の釉薬調合と複合施釉技法

【小生記録より(故・河井寛次郎先生の発表記録について)】

故・河井寛次郎先生が、太平洋戦争の最中であった昭和18年(1943年)2月1日、京都の陶芸家たちを集めて発表された「釉薬の調合およびその組合せ技法」に関する研究体験記録である。これは極めて貴重な資料であり、私(叶光夫)はその後、記載された全調合を追試してみたが、作陶上大変参考となった。私が用いる低火度釉の調合にも本発表を参考としたものがあり、特に唐三彩の釉調再現においては、河井先生の処方が今日なお日本最高峰であると信じている。

なお、ここに記す本窯釉は主として酸化焼成を前提としたものである。

この記録は、河井先生自らが表を書いて掲示・示されたものであるが、当時集まった陶芸家の中で、その場で全データを即座に書き写した者は私以外にいなかったようである。今や故人となられた先生の先般の高島屋での大回顧展を拝見するにつけ、この自体験記録の持つ価値の大きさを痛感する次第である。

(昭和42年5月26日 記)

【河井寛次郎 釉薬の組合せおよび調合(昭和18年2月1日 金光院にて発表)】

※主として酸化焼成用

(1) 鉄赤釉:石灰釉 750 / 酸化第二鉄(Fe2O3) 100 / 珪石 150

(2) 鉄赤釉:芹沢石(益子赤粉)単味、あるいは来待石(きまちいし)単味

(3) 打釉用鉄赤釉:芹沢石素焼き粉 90 / 酸化第二鉄(Fe2O3) 10

(4) 打釉用鉄赤釉:稲山赤土(または黄土)泥漿 10杯 / 土灰釉泥漿 3〜4杯

(5) 鉄黒釉(柿黒釉):芹沢石 80 / 土灰 20

(6) 鉄黒釉:芹沢石 80 / 土灰 20 / 藁灰 10

(7) 鉄黒釉(重ね掛け・組合せ施釉に好適):石灰釉 75 / 酸化第二鉄 8 / 酸化クロム 1 / 酸化コバルト 0.5 / 珪石 14

(8) 鉄黄釉:芹沢石 40〜30 / 土灰 60〜70

(9) 鉄黄釉:長石 10 / 土灰 10 / 黄土 10

(10) 青釉:土灰釉 100 / 酸化銅(CuO) 4

(11) 打釉用青釉:土灰釉 100 / 酸化銅 9

(12) 絹釉(ゼーゲル錐SK6で完焼)

(イ) 土灰釉 80 / 無鉛白玉 20 / 炭酸銅(CuCO3) 3

(ロ) 土灰釉 80 / 無鉛白玉 20 / 炭酸銅(CuCO3) 9

(13) 失透光沢白釉:長石 30 / 土灰 25 / 藁灰 45 / 石灰石 10

(※失透釉の標準基礎比率:長石 10 / 土灰 10 / 藁灰 10)

(14) 失透白釉組合せ釉

(イ) 長石 20 / 土灰 20 / 藁灰 60(SK10 還元焼成 R.F に良好)

(ロ) 長石 30 / 土灰 30 / 藁灰 40(SK12 酸化焼成 O.F に適す)

(15) 白化粧土

(イ) 蝋石 60 / 長石 40

(ロ) 蝋石 25 / 長石 50 / 蛙目粘土 25((ロ)の調合が非常に良好)

(16) 白化粧土:信楽土単味((15)の白化粧土に信楽土を50%混合しても良く、微量の食塩を加えると厚掛けができる)

(17) 象嵌用白素地:磁器素地 100 / 信楽土 20 / 珪石 2

(18) 黒化粧土(イッチン・絞り描き用):信楽土 100 / 酸化第二鉄 8(※信楽土は焼土50%・水簸生土50%の割合で使用)

(19) 低火度白釉

(イ)〜(ロ) 炭酸鉛(PbCO3) 85〜70 / 長石 15〜30

(20) 低火度白釉:炭酸鉛 50 / 長石 50 / 芦沼石 10(芦沼石は来待石や加茂川石で代用可)

(21) 低火度黄釉

(イ) 炭酸鉛 85 / 黄土(または赤土) 15

(ロ) 炭酸鉛 70 / 黄土(または赤土) 30

(ハ) 炭酸鉛 65 / 黄土(または赤土) 35

(22) 低火度浅黄釉:炭酸鉛 70 / 長石 15 / 芦沼石 15

(23) 低火度濃黄釉:炭酸鉛 70 / 芦沼石 30

(24) 低火度樺色(かばいろ)釉:炭酸鉛 85 / 黄土 20 / 炭酸銅 2

(25) 打釉用青菜(あおな)釉:炭酸鉛 70 / 珪石(SiO2) 30 / 炭酸銅 4

(26) 色縮用青釉:炭酸鉛 64 / 白玉 24 / 珪石 12 / 炭酸銅 3

(27) 色縮用緑釉:無鉛白玉 100 / 炭酸銅 3 / 黄土(または赤土) 10 / 酸化錫(SnO2)または珪石 15

(28) 低火度艶消(マット)釉

(イ) 炭酸鉛 50 / 長石 32 / 炭酸バリウム(BaCO3) 12 / 蝋石 5 / 珪石 1

(ロ) 炭酸鉛 50 / 長石 32 / 炭酸バリウム 12 / 蝋石 5 / 炭酸銅 4 / 珪石 1

【河井寛次郎 釉薬の組合せ技法(第一類および応用展開)】

(※前述の調合処方 (1)鉄赤、(2)鉄赤、(5)鉄黒、(6)鉄黒、(7)鉄黒 の組合せ応用技法)

① 単独施釉

② 流し掛け などの部分装飾

③ 下掛けに土灰釉を施し、その上に①②等を流し掛け(大型作品用)

④ 下掛けに土灰釉を施して抜蝋(ワックスレジスト)文様をつけ、上掛けに①②⑤⑥⑦等を掛け流す(ゼーゲル錐SK9の還元焼成 R.F に最適)

⑤ 掻き取り(素地が生乾きの段階で①②⑤⑥⑦の釉を薄く施釉し、竹ヘラ等で文様を削り出す)

⑥ 指掻き取り(施釉直後に指先で釉を拭い去り文様を描く)

⑦ 下掛けに土灰釉を掛け、上掛けに①②⑤⑥⑦を重ね掛けした直後、指で上釉を掻き取る

⑧ ①または②の釉で抜蝋文様を描き、一度素焼きを行ったのち、その上から土灰釉を全面的に施釉する

⑨ ①または②の釉を薄く下掛けして抜蝋文様を施し、⑤⑥⑦の黒釉等を重ね掛けする(またはその逆の順序)

⑩ ①②⑤⑥⑦の釉を施して抜蝋文様をつけ、その上から (14)失透白釉 (イ)・(ロ) を重ね掛けする(上下で①の釉を流し掛けて変化をつけても良い)

⑪ 胎土と同質の粘土(供素地泥漿)でイッチン(絞り描き)装飾を施した上から、①②⑤⑥⑦の釉を施釉する

⑫ (10)青釉 の上に、①②⑤⑥⑦の釉を前述のような手法で組み合わせて施釉する

⑬ (13)失透光沢白釉 の上に、①②⑤⑥⑦の釉の重ね掛け・組合せを試みる

⑭ すべての施釉工程においてイッチン(スポイト絞り描き)文様を応用する

⑮ ①または②の赤釉を下掛けし、その上に ⑥または⑦ の手法を試みる

⑯ ⑥または⑦ の黒釉を下掛けした上に、①②③ の赤釉を重ね掛ける

⑰ ⑤⑦ の黒釉の上に (3)打釉用鉄赤釉 を打ち釉(飛沫掛け)する(酸化焼成 O.F SK9程度。登窯の酸化二番火前の火持ち箇所に適す。イッチン、流し掛け、抜蝋にも応用可)

⑱ ③(3)または(4)の赤釉 をやや薄く下掛けし、その上に ⑤⑦の黒釉 を⑰と同様の手法で用いる

⑲ (4)打釉用鉄赤釉 を生の柔らかい素地に生掛けし、線描き、指描き、掻き取り装飾を施す

⑳ 生素地に (4)鉄赤釉 を施釉し、スポイトに入れた信楽泥漿で流し描きやイッチン絞り描きを施す

㉑ (3)打釉用鉄赤泥漿 を施して抜蝋文様をつけ、素焼きを行った上から土灰釉を重ね掛けする

㉒ ㉑の逆の工程(土灰釉+抜蝋+赤泥漿+素焼き)で行う

 

第十三章 加森先生伝授のトルコ青フリット調合

① 加森式 トルコ青フリット基礎調合(配合比)

石灰石 6.0 / 結晶硼砂 12.0 / 無水炭酸ソーダ(ソーダ灰) 5.0 / 硝酸カリウム(加里硝石) 3.0 / 酸化亜鉛(亜鉛華) 4.0 / 珪石 12.0 / 酸化錫 0.3 / 炭酸銅 1.3 (合計 43.6)

(※上記原料を溶融・ガラス化させてフリットとする)

② 簡便処方:無鉛白玉フリット 100 / 炭酸銅(CuCO3) 4〜4.5

③ 筆者(叶光夫)実用処方(焼成温度 約750℃)

無鉛白玉フリット 80 / 唐土 15.4 / 珪石 4.6 / 炭酸銅 4 (合計 104)

上記③の調合に酸化錫(SnO2)を 1〜2% 添加しても良い。酸化錫は釉薬に適度な失透性(やわらかい乳白感)を与える効果がある。

本調合に少量の鉛成分を加えているのは、焼成時のフクレやキズを防ぎ、歩留まり(成功率)を向上させるためである。この程度の少量であれば、トルコ青特有の美しい鮮青色の発色を損なうことはない。

無鉛白玉フリットは水中で非常に沈殿しやすいため、施釉時には布海苔液を用いて溶き解すと懸濁性が保たれて都合が良い。刷毛や筆で塗布する場合は、塗面を乾かしながら2〜3回にわたって重ね塗りを行えば、ムラのない均一な厚みに仕上がる。

このトルコ青釉を使用する際は、原則として素地を高火度でしっかりと硬く焼き締めて(強め素焼き)から施釉する(ただし古代ペルシャ等の出土原品は生掛けであったと思われる)。

 

第十四章 陶芸技法・加飾法分類一覧(全27種)

1. 化粧(けしょう):素地表面に化粧土を掛け下地を整える技法

2. 刷毛引き(はけびき):刷毛を用いて化粧土や絵具を動的に塗布する技法

3. 櫛掻き(くがき):櫛状の道具で素地や化粧土の表面を削り線文様を描く技法

4. 筆書き(ふでがき):筆を用いて線描や文様を直接描き込む技法

5. 指掻き(ゆびがき):指先を用いて施釉面や化粧土を掻き取り文様を作る技法

6. 掻取り(かきとり):ヘラ等を用いて表面の土や釉を削り取り下地を露出させる技法

7. 釘彫り(くぎぼり):釘などの鋭利な金属具で素地にシャープな線を刻む技法

8. 象嵌(ぞうがん):刻んだ溝に異色の粘土や絵具を埋め込む技法

9. 抜蝋(ぬきろう・ワックスレジスト):溶かした蝋で描いて撥水させ釉を弾かせる技法

10. 絞り描き(しぼりがき・イッチン):スポイトや筒から粘土泥・絵具を絞り出して線描する技法

11. 流し描き(ながしがき):泥漿や絵具を流し落としながら動的な線を描く技法

12. 流し掛け(ながしかけ):柄杓等で釉薬を部分的・重層的に流し掛ける技法

13. 指押し(ゆびおし):指頭で素地を押し凹ませてリズム感ある凹凸を作る技法

14. 面取り(めんとり):包丁や薄刃で器体の外周を削ぎ落とし多角形を作る技法

15. 板打ち(いたうち・タタキ):木板や叩き具で器面を叩いて締め文様を転写する技法

16. 浮彫り(うきぼり・レリーフ):文様の周囲を削り落として文様を立体的に浮き立たせる技法

17. くり抜き(彫り出し):粘土の塊から内外を削り出して器体を形成する技法

18. 盛上げ(もりあげ):泥漿や絵具を厚く盛り上げて立体的な文様を作る技法

19. 彫りまたは打ち押し型:彫刻した型や叩き型を押し当てて立体文様を転写する技法

20. 張り付け文様型:型で抜いた粘土の装飾パーツを器体に貼り付ける技法

21. 吹き釉(ふきぐすり・スプレー):吹き筒や噴霧器を用いて釉薬を霧状に塗布する技法

22. 塗り分け(ぬりわけ):境界を区切って複数の釉薬や絵具を塗り分ける技法

23. 重ね釉(かさねぐすり):異なる性質の釉薬を上下に塗り重ねて複雑な発色を得る技法

24. 打ち釉(うちぐすり・飛沫掛け):筆や束ねた枝で釉薬を弾き飛ばして点文様を散らす技法

25. 押し型釉(おしがたぐすり):型を用いて釉薬の塗布厚や文様をコントロールする技法

26. 釉薬の上描き(うわがき・上絵付け):本焼き釉面の上に上絵具で描く技法

27. 釉薬の中書き(なかがき・下絵付け/中間描き):素地と釉薬の間、あるいは釉層間に描く技法

 

結び

焼き物の歴史とは、土と火、そして人間の知恵が織りなす無数の失敗と誠実な探求の積み重ねにほかなりません。

叶光夫氏が半生をかけて書き遺したこの手記には、単なる科学的データや技法の伝承を超えて、素材を敬い、伝統に深く学びながらも自らの表現を模索し続けた一人の巨芸の魂が息づいています。「温故知新」——先人たちが流した汗と努力の結晶を正しく理解し、その精神と技術のバトンを現代の私たちが受け取ることこそが、未来の陶芸文化をより豊かに咲かせる道であると信じております。

どうぞ本資料を、皆様の日々の作陶や研究、あるいは美術鑑賞におけるかけがえのない道しるべとして未来へ繋ぐためにご活用ください。先人たちの遺した知恵が新たな美として芽吹き、時代と国境を超えて後代へと継承されていくことを、当店「アンティーク・リカー1926」は心より願っております。

 

叶 光夫(かのう みつお、1903年-1970年)氏の作品一覧》

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