パラフィルムは本当に蒸発を防ぐのか?数値データで見る古酒ウイスキー保管の科学
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ウイスキーの愛好家の皆様の間で、未開栓ボトルの長期保管に伴う「液面低下(蒸発)」を防ぐためにパラフィルムを使用することは、もはや一つの象徴的な光景となっています。しかし、その実際の効果については、これまで様々な議論が交わされてきました。
今回は、客観的な資料をもとにパラフィルムの素材特性や透過率を精査し、ウイスキー保管における真の有効性について考察いたします。

1. 「パラフィルム(Parafilm)」の正体
まず、私たちが一般名詞として呼んでいる「パラフィルム」は、本来はBemis Companyの登録商標であり、特定のブランド名です。「ホッチキス」や「セロテープ」のように、その圧倒的な利便性から製品名が代名詞として定着しました。
類似の密封フィルムも存在しますが、使い勝手の良さと世界的な認知度から、国内外を問わずパラフィルムが最も選ばれているのが現状です。その素材はポリオレフィンとパラフィンワックスの混合物であり、名称もパラフィンワックスに由来しています。
2. 数値で見るパラフィルムの物理的性能
パラフィルムが持つ具体的なスペックを詳しく見ていきましょう。
- 伸縮性: 21°Cで200%まで伸長可能。82°Cから93°Cの間で、部分的に元のサイズに復元可能。
- 使用温度: -45°Cから50°Cまで使用可能。
- 酸素透過率: 150cc/ m²/ 24時間(22.8°C、相対湿度50%)
- 二酸化炭素透過率: 400cc/ m²/ 24時間(22.8°C、相対湿度50%)
- 水蒸気透過率: 88g / m²/ 24時間(37.8°C、相対湿度90%)
3. ウイスキー瓶への適用:透過量のシミュレーション
では、このスペックがウイスキーの瓶口において、実際にどれほどの透過を許容するのでしょうか。一般的なボトル(瓶口の半径を2cm、高さを3cmと仮定)の表面積を約0.0012 m2として算出します。
■ 酸素の透過量
計算式に基づくと、1日あたりの酸素透過量は約0.18ccとなります。
これはティースプーン一杯のわずか0.036杯分に相当します。現実には、大気中の酸素比率(約21%)や、良質なコルクによる遮断効果を考慮すれば、透過する酸素の量は実質的に極めて微量であると判断できます。
■ 水蒸気の透過量(1年間の蓄積)
同様に、水蒸気の透過量を年間ベースで算出すると、以下の結果となります。
- 酸素の年間透過量: 約65.7cc(ティースプーン約4.38杯分)
- 水蒸気の年間透過量: 約0.38544g
4. 結論:パラフィルムは真に有効か
以上の技術検証から導き出される結論として、パラフィルムの使用はウイスキーの長期保管において非常に有効な手段であると言えます。
ただし、その効果を最大限に引き出すためには、以下の点に留意する必要があります。
- 十分な長さを使用する: 実質的な遮断効果を得るためには、1瓶あたり最低でも20 cm程度をしっかりと巻きつけることが推奨されます。
- 保管環境の温度管理: 耐熱温度が50Cまでとなっているため、夏の高温下や密閉された倉庫(あるいは車のトランク内など)に放置すると、フィルムが変質し機能を失う恐れがあります。
- 1年周期のメンテナンス: 経時的な劣化を考慮し、1年ごとに新しいフィルムへ交換することが、大切なコレクションの価値を末永く守るための鍵となります。古くなったパラフィルムは、コレクションのウィスキーにへばりついてしまったり、ウィスキーのキャップシールを変色させることもあるので注意が必要です。
執筆後記
以上の考察は、技術スペックに基づくシミュレーションです。私自身、ウイスキーの奥深い世界を学び始めたばかりの身ではございますが、愛好家の皆様が一点一点のボトルを大切に想う気持ちに寄り添い、客観的なデータとして整理させていただきました。
なお、一点留意すべき点がございます。パラフィルムは長期間貼り付けたままにすると、経年劣化により固着してきれいに剥がせなくなったり、稀にキャップシールの変色や損傷を招いたりする恐れがあります。

こうしたリスクを回避し、ボトルの美観を損なわないためには、あらかじめ瓶口に包装用ラップ(画像参照)を巻いて保護してから、その上からパラフィルムを重ねて密封する手法も非常に有効です。大切なコレクションを最良の状態で維持するための工夫として、ぜひお役立てください。