松本 為佐視 作 青磁 馬上杯 現代京都磁器の至宝 #162
松本 為佐視 作 青磁 馬上杯 現代京都磁器の至宝 #162
松本為佐視(まつもと いさみ、1931 - 2012)氏は、文化勲章受章者である楠部彌弌氏や宮下善寿氏に師事した、現代日本陶芸界において最高峰の血統に位置する作家です。師から受け継いだ実用を超えた純粋芸術としての陶芸精神は、格調高い造形美と繊細な色彩の重なりとして彼の作品に一貫して流れています。本作において氏が到達したエメラルドグリーンの発色は、釉薬中の酸化鉄含有量を0.1パーセントから0.3パーセントという極めて微細な範囲で制御し、窯内の還元雰囲気を1300度前後の高温域で完全に一定に保つことで初めて得られる物理現象の結果です。この技法は中国・宋時代の汝窯が到達した天青色を現代の化学的アプローチで再定義したものであり、光が釉薬層内の微細な気泡や未溶解粒子に反射して起こるレイリー散乱を意図的に引き起こすことで、工業製品の着色剤では不可能な奥行きのある透明感を生み出しています。
造形面における馬上杯のステム部分は、磁器土特有の高い収縮率ゆえに焼成時の自重で歪みや倒れが生じやすく、歩留まりが極めて低い極限の造形といえます。さらに、師から継承した線刻技法は、素地が半乾燥状態にあるわずかな時間内にコンマ数ミリの精度で針を走らせる高度な感覚を要し、一度のミスも許されない非可逆的な工程を経て完成されます。これほど薄く端正な磁器に深みのある青磁釉をムラなく定着させ、貫入を制御することは、日展審査員としての長年の経験に基づく焼成スケジュールの完全な掌握を証明しています。
こうした圧倒的な技術力と品格ゆえに、松本氏は国内最高峰の日展において二度の特選を受賞し、後に審査員や評議員といった重職を歴任して日本の美術界を牽引しました。その評価は海外にも及び、アメリカのカンザス大学附属スペンサー美術館には彼の作品が収蔵されています。同館では、汝窯青磁の現代的再解釈や京都における磁器の進化を学ぶための生きた教材として、学生や研究者に活用されるほど学術的にも高く評価されています。
高さ約6センチという小ぶりな馬上杯という形式には、単なる酒器を超えた祝祭の祈りが込められています。器とは注がれる液体と使う人の心が出会うための聖域であるという信念に基づき、師から継承したモダンな表現主義が、静寂の中に生命が花開く一瞬の躍動としてこの小さな空間に封じ込められました。中国の古典美を継承しながら20世紀京都の洗練を加えたこの青は、バカラやラリックなどの高級ガラスを愛用する層の審美眼にも合致し、世界中のコレクターから時代を超越した美学として極めて高く評価されるべき逸品です。
- 作者:松本 為佐視(まつもと いさみ、1931年~2012年)
- 作者の代表的な活動歴:[1967年] 第10回日展特選受賞、[1974年] 第6回日展特選受賞、[後年] 日展審査員、日展評議員、京都工芸美術作家協会理事などを歴任
- 作品収蔵:スペンサー美術館(アメリカ・カンザス大学附属)、ミネアポリス美術館 (Minneapolis Institute of Art / アメリカ)、バーク・コレクション (Mary and Jackson Burke Foundation / アメリカ)、京都市京セラ美術館(京都市美術館)、逸翁美術館(大阪府池田市)、など
- 制作年代:1990年代(推定)
- 状態:非常に良い(欠けなし、割れなし)
- 付属品:専用共箱、包布 あり
- 材質:磁器、青磁釉
- 寸法:直径約 6cm、高さ約 6cm
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