人間国宝 島岡 達三 傑作 縄文象嵌塩釉 夫婦湯呑 ロックグラス 2点セット #170
人間国宝 島岡 達三 傑作 縄文象嵌塩釉 夫婦湯呑 ロックグラス 2点セット #170
人間国宝である島岡達三(しまおか たつぞう、1919-2007)氏は、東京の下町で組紐師の長男として生を受けました。氏は東京工業大学窯業科で専門的な技術を修めた後、1946年に民藝運動の巨匠である濱田庄司氏の門を叩き、益子の地で20年以上にわたって研鑽を積みました。師である濱田氏は、島岡氏について内に強い自信を持ちながら、仕事の発表には意識して控えめなところがあると評しており、確かな技術を持ちながらも自分の好みの焦点を絞って仕事に打ち込む姿勢を高く評価していました。
島岡氏が世界的に高く評価される最大の理由は、その独創的な縄文象嵌技法にあります。この技法は、半乾きの粘土に組紐を転がして縄目の模様を刻み、その凹凸に異なる色の泥土を埋め込み、余分な泥を削り落とすことで文様を浮かび上がらせるものです。特筆すべきは、模様を形作る組紐に、組紐師の名人であった実父の遺品であるシルクの紐を用いている点です。この極めて細密な紐が生み出す縄目は、一般的な縄文土器の粗野な質感とは一線を画す、洗練されたリズムと気品を器に与えます。象嵌という技法自体は古くから存在しますが、泥土の乾燥収縮による剥離や、削り出しの際の紋様の崩れを完璧に制御することは至難の業であり、島岡氏の作品に見られる寸分の狂いもない紋様の美しさは、氏の卓越した集中力と精密な計算の賜物です。
本作品である象嵌夫婦湯呑は、この縄文象嵌に加え、氏が晩年に完成させた塩釉あるいはソーダ釉の技術が贅沢に注ぎ込まれた傑作です。塩釉とは、窯の温度が1250度から1300度の最高潮に達した際、窯内に岩塩やソーダ灰を直接投入する特殊な技法です。揮発した塩分やナトリウムが土に含まれるシリカと化学反応を起こし、器の表面にオレンジピールとも呼ばれる独特の微細な光沢とガラス質の被膜を形成します。この技法は窯そのものを激しく損傷させるため、専用の窯と熟練の勘が必要であり、発色のコントロールが極めて難しいことで知られています。
本作における最大の評価ポイントは、器を上下に分断する帯状の造形によって、2つの難易度の高い技法を1点の中に共存させている点にあります。上半分には緻密な縄文象嵌による古代の静寂を配し、下半分にはソーダ釉の化学反応によって生まれた鮮やかなエメラルドグリーンの現代の色彩を配置しています。一般的に島岡氏の作品は、濱田庄司氏が着物にすれば紬か絣と例えたような、霞がかった柔らかな風合いが主流ですが、本作のようなコントラストの強い意匠は、氏が世界各国での個展を経て到達したモダンな美意識の現れです。
本来は湯呑として制作されたこの名作を、当店では全く新しい用途で愉しむことを提案します。それは、数十年の刻(とき)を封じ込めた、今はなき終売古酒ウィスキーを味わうための「特等席」としてです。長い歳月を経て熟成されたウィスキーは、まさに「飲む香水」と呼ぶにふさわしい重層的な香りを湛えています。湯呑特有の、わずかに窄(つぼ)まった口縁の形状は、実は立ち上る香りの粒子を逃さず凝縮し、鼻腔へとダイレクトに導くための合理的な構造でもあります。器を手に取り、静かに鼻を寄せれば、そこには古酒が放つ濃密な芳香を心ゆくまで吟味できる、贅沢な空間が生まれます。
指先に伝わる縄文象嵌の緻密な凹凸。そして、唇に触れる塩釉の滑らかな質感。これらの触覚的な悦びは、数十年という時間を旅してきた古酒の重厚な味わいを、より一層鮮やかに引き立ててくれるでしょう。島岡達三が完成させた「土の芸術」と、歳月が磨き上げた「琥珀の芸術」。この二つの時間が重なる時、あなたはただ酒を飲むのではなく、過ぎ去った時代の記憶と対話するような、唯一無二の静寂を手にすることになります。炎の偶然が生み出した色彩を眺めながら、最高級の古酒と更ける夜。それこそが、本物を知る者にのみ許された、最も贅沢な時間の過ごし方なのです。
*島岡氏の師である浜田庄司からのコメント
島岡君は東京の下町育ちの人特有の内心には強い自信を持っていながら仕事の発表には意識して控え目のところがあり、東京工大の窯業科を出て二十余年になり、益子の土も身について、技術的には大抵のものが出来る腕をもちながら自分の好みの焦点をよく絞って仕事を抑えています。
島岡君は像文土器の手法から学んで独特の象嵌模様を愛用していますが、この主役をする核種の組紐は、組紐師としての名人だった父上の遺品です。模様を紐に委せて自分の作風を立てている巧さなどいかにも島岡君と言えましょう。大体渋い仕事で着物にすれば糸は紬(つむぎ)で柄は絣(かすり)とでもいうところかと思います。
浜田 庄司(はまだ しょうじ、1894-1978)
- 作者:島岡達三(しまおか たつぞう、1919-2007)
- 作者の代表的な活動歴:[1962] 日本民藝館賞受賞、[1980] 栃木県文化功労章受章
- [1994] 日本陶磁協会金賞受賞、[1996] 重要無形文化財「縄文象嵌」保持者(人間国宝)に認定、[1999] 勲四等旭日小綬章受章
- 作品収蔵:ヴィクトリア&アルバート博物館(ロンドン)、大英博物館(ロンドン)、メトロポリタン美術館(ニューヨーク)、ブルックリン美術館(ニューヨーク)、ボストン美術館、東京国立近代美術館、日本民藝館(師・濱田庄司や柳宗悦の志を継ぐ聖地)、益子陶芸美術館、栃木県立美術館 など
- 制作年代:1980年~1990年代前半(推定)
- 状態:非常に良い(欠けなし、割れなし)
- 付属品:共箱、栞
- 材質:陶器
- 寸法:[大] 高さ約 8.8cm、口径約 8.4cm、[小] 高さ約 7.8cm、口径約 7.5cm
- 注意:当店が提供する商品は新品未使用であっても生産時期が大変古いものであり、すべて中古品として掲載しています。商品には経年によるダメージがある場合がありますので、ご理解及びご確認の上で購入をご検討ください。
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