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松本 為佐視 作 青磁酒杯 2点セット 汝窯の再定義・レイリー散乱によるエメラルドグリーンの極致 #172

松本 為佐視 作 青磁酒杯 2点セット 汝窯の再定義・レイリー散乱によるエメラルドグリーンの極致 #172

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現代日本陶芸界において、最高峰の血統に位置する名匠、松本為佐視(1931-2012)。文化勲章受章者である楠部彌弌氏、および宮下善寿氏という巨星に師事した氏は、師から受け継いだ「実用を超えた純粋芸術としての陶芸精神」を生涯の礎としました。本作は、その格調高い造形美と、計算し尽くされた繊細な色彩の重なりが結実した、氏の円熟期を象徴する2点セットの酒杯です。

本作において最も特筆すべきは、吸い込まれるような深みを湛えたエメラルドグリーンの発色です。この神秘的な色彩は、釉薬中の酸化鉄含有量を0.1%から0.3%という極めて微細な範囲で精密に制御し、窯内の還元雰囲気を1300度前後の高温域で完全に一定に保つことで初めて得られる物理現象の産物です。この技法は、中国・宋時代の伝説的な「汝窯(じょよう)」が到達した天青色を、現代の化学的アプローチによって再定義したものであり、釉薬層内の微細な気泡や未溶解粒子に光が反射して起こる「レイリー散乱」を意図的に引き起こしています。これにより、工業製品の着色剤では決して到達し得ない、内側から発光するような奥行きのある透明感を生み出しているのです。

造形面においても、磁器土特有の高い収縮率を克服した端正な佇まいが目を引きます。師から継承した「線刻技法」は、素地が半乾燥状態にあるわずかな時間内に、コンマ数ミリの精度で針を走らせる高度な感覚を要するものであり、一度のミスも許されない非可逆的な工程を経て完成されます。これほどまでに薄く研ぎ澄まされた磁器に、深みのある青磁釉をムラなく定着させ、貫入(かんにゅう)を完全に制御する技術は、日展審査員として長年の経験に基づき、焼成スケジュールを完全に掌握していた氏の卓越した手腕を証明しています。

松本氏はその圧倒的な技術力と品格ゆえに、国内最高峰の日展において二度の特選を受賞し、後に審査員や評議員といった重職を歴任して日本の美術界を牽引しました。その評価は海外にも及び、アメリカのカンザス大学附属スペンサー美術館をはじめ、ミネアポリス美術館やニューヨークのバーク財団など、世界的な機関に作品が収蔵されています。特にスペンサー美術館では、汝窯青磁の現代的再解釈や、京都における磁器の進化を学ぶための「生きた教材」として活用されるほど、その学術的価値は揺るぎないものとなっています。

「器とは、注がれる液体と使う人の心が出会うための聖域である」という信念に基づき制作されたこの酒杯には、単なる酒器を超えた祝祭の祈りが込められています。中国の古典美を継承しながら、20世紀京都の洗練されたモダンな表現主義を融合させたこの「青」は、バカラやラリックといった高級クリスタルガラスを愛用する審美眼の持ち主にとっても、格別の満足感を与えるでしょう。琥珀色のウィスキーや透明な日本酒を注いだ瞬間、レイリー散乱によるエメラルドグリーンの極致が液体と共鳴し、卓上に静かなる躍動をもたらします。時代を超越した美学が封じ込められた、まさに至高の逸品です。

  • 作者:松本 為佐視(まつもと いさみ、1931年~2012年)
  • 作者の代表的な活動歴:[1967年] 第10回日展特選受賞、[1974年] 第6回日展特選受賞、[後年] 日展審査員、日展評議員、京都工芸美術作家協会理事などを歴任
  • 作品収蔵:スペンサー美術館(アメリカ・カンザス大学附属)、ミネアポリス美術館 (Minneapolis Institute of Art / アメリカ)、バーク・コレクション (Mary and Jackson Burke Foundation / アメリカ)、京都市京セラ美術館(京都市美術館)、逸翁美術館(大阪府池田市)、など
  • 制作年代:1990年代(推定)
  • 状態:非常に良い(欠けなし、割れなし)
  • 付属品:専用共箱、包布 あり
  • 材質:磁器、青磁釉
  • 寸法:直径約 5.6cm、高さ約 5.6cm
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