佐賀県重要無形文化財保持者 十九代 小笠原 長春 鍋島青磁 彫文 筒型大振り酒器 ロックグラス #206
佐賀県重要無形文化財保持者 十九代 小笠原 長春 鍋島青磁 彫文 筒型大振り酒器 ロックグラス #206
十九代小笠原長春(おがさわら ちょうしゅん)、本名・小笠原謙三(おがさわら けんぞう、1932-)は、江戸時代の鍋島藩において藩窯を支えた御用絵師および陶工の血統を正統に受け継ぐ、鍋島青磁の第一人者です。氏は1932年に佐賀県伊万里市大川内町に生まれ、1998年にはその卓越した技術が認められ、佐賀県重要無形文化財鍋島青磁の保持者に認定されました。その作品は大英博物館(ブリティッシュ・ミュージアム)にも収蔵・展示されるなど、国際的な美術市場においても東洋の美を象徴する最高峰の磁器として揺るぎない評価を確立しています。小笠原家が守り抜いてきた鍋島青磁の最大の特徴は、伊万里の大川内山でのみ採掘される希少な天然の青磁原石を細かく砕き、釉薬として贅沢に使用している点にあります。
本作には、小笠原長春氏が最も高く評価される技術的特徴が随所に凝縮されていますが、その背景には極めて難易度の高い制作工程が存在します。まず目を引くのは翡翠を彷彿とさせる深く潤いのある発色ですが、天然石を用いる青磁釉は火加減に対して驚くほど敏感です。窯内の酸素を制限する還元焼成のコントロールは至難の業であり、わずかな誤差が生じるだけで色は茶褐色に濁り、本来の輝きを失った鈍い発色へと変貌してしまいます。さらに、鍋島青磁特有の奥深さを出すために釉薬を極めて厚く掛けていますが、これは焼成中に釉薬が流れ落ちたり、冷却時にひび割れたりするリスクを常に伴う高難度の技法です。この厚掛けされた釉薬の層を通して、下層に施された繊細な線彫りの文様が静かに浮かび上がる様は、保持者ならではの厳格な温度制御と熟練の感性によって初めて成し遂げられる、まさに「奇跡の景色」と言えます。
本作は茶碗として制作されたものですが、その造形は伝統的な茶道具の枠組みにおいても極めて特別な工夫が凝らされています。高さ約11センチ、口径約10センチという寸法自体は深型の茶碗として標準的な規格にありますが、特筆すべきは胴から口縁にかけて二段階に広がる独創的なシルエットです。この段差を伴う形状は、意匠としての美しさだけでなく、実用面において驚くべき機能性を発揮します。計算された二段階の広がりが指掛かりを劇的に良くしており、大ぶりのサイズ感でありながらも片手で驚くほど安定して保持できるよう設計されています。この独自の造形美は、古酒を楽しむためのロックグラスとして転用した際、手に馴染む重厚な安心感をもたらします。将軍家への献上品としてのみ作られた秘窯の精神を継承し、現代の人間国宝に相当する地位を確立した小笠原長春氏の作品は、限られた天然資源と極限の技が融合した希少な文化財であり、贅を尽くした晩酌の時間を彩るにふさわしい名品です。
- 作者:十九代 小笠原長春、小笠原謙三(おがさわら ちょうしゅん、おがさわら けんぞう、1932-)
- 作者の代表的な活動歴:[1951] 作陶活動開始、[1982] 佐賀県芸術文化功労賞受賞、[1993] 地域文化功労者表彰(文部大臣表彰)、[1998] 佐賀県重要無形文化財 鍋島青磁 保持者に認定、[2003] 旭日単光章受章
- 作品収蔵:大英博物館(ロンドン)、在英国日本大使館(ロンドン)、宮内庁(献上実績)、佐賀県立九州陶磁文化館、佐賀県立美術館、伊万里市陶磁器館 など
- 制作年代:1998年以降(円熟期、重要無形文化財認定後と推定)
- 状態:非常に良い(欠けなし、割れなし)
- 付属品:共箱、栞
- 材質:磁器(鍋島青磁)
- 寸法:高さ約 11.0cm、口径約 10.0cm
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